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第十九話 戦闘

 左手の籠手。

 これは人間が扱うことの出来ない魔法が使える籠手。もし魔法が発動されると、それが初めて目撃するものならこの籠手はたちまちそれを解析し、俺自身も発動を可能にするという素晴らしい道具だ。――ただし、一見インチキ臭い思われるかもしれない機能を備えたこの道具だが、必ずしもいいことばかりではない。デメリットもあるのだ。

 その時、籠手モニターに『Recommend i1』と表示された。I1……アイ、ワン……か、そうだったな。こんな機能もあった。

 画面から目を離した俺は下にあるクレイスの首を持ち上げると、体を捻って勢いをつけてから、まだ唖然としていたシパーソンの足元目がけて思いっきり投げつけた。ドサリッ、と自分のすぐ側に転がる首を瞳に宿したシパーソンは、ヒッ! とわかりやすいくらいに顔を青ざめた……が、だんだんその配色が歩行者信号機みたく、青から赤へと変化していく。

「くっそぉぉぉぉ! いい気になるなよ!」

 もう悔しさが隠し切れないといった様子で、近くの闘技場内部へ続く通路へと足早に姿を消していった。すぐさまキュットがちょこちょこと駆け寄ってくる。

「ヤストさん、今やったことって……魔法、ですか?」

 俺は、「ああ」と短い返事をする。 

キュット…………それにシパーソンも加えてやってもいいが、びっくりするのもやむないだろうな。

 何せこの世界の常識では、魔法は魔物が……魔物だけが、扱える代物というのが一般認識となっているのだから。そしてそんな人間には扱えない魔物だからこそ、誰にでも恐れられている一番の理由だろうと俺は思うし、だから逆に魔法を使わない魔物は、その固体に対する人間の恐怖心が薄れ、闘技場に見世物として働かせるために捕まってしまう。

「キュット、さっきアイツ魔物が死んでも儲かるみたいなこと言ってたが、どうしてだか知っているか? 俺には片付ける費用がかさんで面倒なだけだと思うんだが……」

「はい。それは魔物の《コレイ》が高く取引されているからです」

 そういえばさっきシパーソンもコレイがなんちゃら……とかなんとかいってた気がする。そもそも、コレイとはなんなんだ? 今度はその単純な疑問をキュットに投げかけてみる。

「これも聞いた話なんですけど……どうやら魔法の源? みたいなものらしいですよ。小さな石……のような見た目をした。魔物には必ずこれが体のどこかに埋め込まれていてこれを破壊したり体外に取り出されたりすると、一切の魔法を扱えなくなるそうです」

 キュットは宿屋の娘という立場上、何かと宿泊者から噂話を聞くという機会も多いのだろう。そのおかげか、今回だけに限らず、何かと俺が疑問をキュットに投げかけると、意外に答えてくれたりする。彼女は物知りなのだ。

 それにしてもコレイ……か。魔物を倒すことにおいて、通常の場合一人の人間ではその目標を成し遂げることは困難だろう。

だが、きっとそのせいでコレイには価値が生まれるのだ。紫色に輝く小さな石のような見た目のそれは、形と純度、そして大きさという点で評価され、特に良い状態のものは非常に高値で取引が行われるらしいとのこと。死んでも儲かるという発言は、そういうカラクリが背景に存在したからというわけだ。

「どおおおも待たせたねぇぇ!」

 シパーソンの野郎が忘れずしっかり戻ってきやがった。そこですぐにシパーソンを追うように、一人の闘技場で雇われているのであろう背の低い男が焦った様子で小走りに近づくと、

「シパーソン様、ほ、本当にやるのでしょうか……? 今まで一度もそのようなことをしたことがないゆえ、一体どのような危険があるか……」

「うるさあああぁぁぁい! お前、まさか僕の命令が聞こえなかったんじゃないだろうな?」

「めっ、めっそうもございません! ただちに……ただちに実行いたしますぅ!」

 男は血相変えると一目散に中へと全力ダッシュで戻っていた。

「どうやら君にはあれだけじゃ不十分だったようだからね……特別にもっと祝ってやろうじゃないか!」

「別に……もう充分なんだが……」

 カラカラ――さっきも耳にした鎖が巻かれていく音だ。それに反応して俺は視線を先ほど木箱がせりあがってきた箇所の地面へと送る。すると案の定というか、そこには穴が空いていた。   

性懲りもなくまたもクレイスを……。

 カラカラ、カラカラ、カラカラ。

ピタリ、と自分の体が固まる。額から一筋、汗が流れ落ちていく。

 明らかに音の発生源が、先ほどの比じゃないくらいに複数の箇所から洩れ聞こえてくるのだ。

 直後、右、左、前、後ろ、斜め、全方位から一斉に木箱が浮上してきた。きっと観客を楽しませるために、どこからでも魔物が出せるような仕掛けが備えられているのだ。

「これは…………まずいかも」

 一方シパーソンはというと、木箱に囲まれる俺のたじろいでいるのが何とも愉快で面白いようである様子だ。こんな状況だというのに、豪快にげらげらと腹を抱えて大爆笑している。

 一つ、二つ、三つ……少なくとも十以上はあるな。改めてこの闘技場の規模に驚かされるぜ。嫌な驚かせ方だけどな……。

「ヤストさん、どうしましょう……」

 ……はあ……まあ、やるしかないよな。

 俺は手近に地面からにょきっと生えてくるみたいに現れた木箱に寄ると、開放されるのも待たず問答無用で木箱ごと横から綺麗に真っ二つにした。

「おおい! ずるいぞぉ! ちゃんと戦いわんかあああい!」

 もはやあのアホ丸出しな怒鳴り声を上げながらその場を飛び跳ねてるシパーソンに構っている暇も余裕もない。俺はキュットを引き連れてひとまず壁の方を目指した。しかし、もちろんこっちの事情など鑑みられるわけもなく、壁際に到着するより早く、木箱からクレイス達が出現する。

「グルルルアアアアア!」

一匹が唸り声を上げるのを皮切りとするように、各地で咆哮発するクレイス達。そんな魔物達の騒音のような大合唱が響く中、俺は目の前のまだ起きたばかりだからか動きが鈍い一体をすみやかに氷結させ動きを止めると、両足をぶった斬った。地を揺さぶりながら崩れ落ちるクレイスの巨体を尻目に俺達は先を急ぐ。

「グアアアア!」

「アイ、ワン!」

 そこで突如、背後から襲い掛かってきたクレイスの足を魔法で地面に留め、元々位置的に壁付近にいたことも功を奏して、なんとか無事に辿りつくことが出来た。

「キュット、壁際から絶対に離れるな!」

「はい!」

 すぐに振り返ると、もう間近に左右から二体のクレイスが挟撃するように、フガァァァと鼻息を荒げながら突撃してくるところだった。まずは右の一頭に一発魔法を放つ、そしてすかさず左にも同じのを足元に放つ。二体は時間差があったもののお互いバランスをくずしてドサリとすごい勢いで顔面から転んでいった。

 とにかく足だ。やつらの動きを止めなければならない。

 俺は左の一匹へと急いで接近すると、すかさず切り伏せる。が、慌てていたのもあってか狙いがわずかに逸れてしまい、『剣』は相手の腕一本を切り飛ばすに留まってしまう。

「ちっ……」

 気付いたら、足を地へ縫い留めていたはずの右のクレイスがもう俺の目と鼻の先にいた。長い腕を横薙ぎに俺の脇腹付近目がけて払ってくる。咄嗟に俺は鞘と剣を十字に構えて防御姿勢を取るが、数メートル吹き飛ばされてしまう。闘技場の細かな土を巻き上げながら、俺はなんとか肩膝をついて攻撃の勢いを殺した。するとその一匹がなんとその巨体に似合わない跳躍力で俺へと飛び掛ってきた。すかさず横へと回避するが、そこを待ち伏せていたとしか思えないくらいのベストタイミングで、別のクレイスが両腕を天へと振りかぶっていた。

 俺はとっさに身を捻りながら右手でガードする。

捻るくらいではかわしきれず、直撃とまではいかないものの、相手の腕が触れた瞬間、デカイハンマーでぶっ叩かれたかのようにとても重い一撃が、俺の右手を衝撃となって伝わってくる。もし、籠手をつけてなかったら腕が折れていたかもしれない。

 立ち上がってバックステップした俺は、そいつの顔面に氷をぶっ放してやった。ひるんだのか巨躯がぐらついた瞬間を見逃さなかった俺は、すみやかにしとめようと剣を鞘へと納め居合いのボタンに手を掛けたところで、また後方から二体のクレイスが走ってきた。

「まじかよ」

 顔に一発魔法を叩き込んだクレイズの、ふらふらしている首を狙うのは諦めて、狙いやすかった足を高速で切断する。そのまま、剣を鞘に収納しないで寄ってくる二体に魔法を五発撃ち込んだ。

「アイワン、ファイブ」

 これは詠唱のショーットカットだ。いちいちアイス1と唱えるのは、一回ならいいものの何回も連続して使いたかったら場合、何度も言うのは疲れるし、何かと不都合があるかもしれない。そこで、そんなお悩みを解決するために生まれたのがこのシステム。何と発動時の文言を省略できる上、加えて回数もしていすればその分指定した魔法を連続発動するという超、便利機能なのだ。

 じゃあさっさとこの技やれよ! という話になるのだが――そこには二つ事情がある。一つは……まあ、俺が単純にボケて忘れていただけということなのだが。そしてもう一つの理由、主にそちらが大事であるのだが……。

 クレイス二体の足の挙動を一時的に停止させることに成功した俺は、一番近くのクレイスの首を躊躇なく跳ね飛ばした。納刀するのと同時に軽やかに身体を翻し、もう一匹の足元氷付けになったクレイスの暴れる腕をさっと避けてから、首へと斬撃を放った。

そこから何かパターンにでも入ったのか、それとも自分がクレイスの動きに慣れてきたのか、はたまその両方か……糸で何者かに操られているのではと錯覚するほど流れるように自然と身体が駆動していた俺は、とにかく休む暇なく感覚に身を任せて動き続けた。魔法を撃っては斬って、相手の攻撃をかわしてはまた斬って、アドレナリンの分泌量が半端ないのかまったく疲れを感じない俺は、辺りを縦横無人に駆けめぐってひたすら斬り続けた。仲間を殺されてヘイトが俺に集っているのだろうか、キュットの方へと向かうクレイスはいなかったのも幸いした。

 あと…………五体。

 敵の数はとにかくやたら多かったが、それは逆に二つだけ良いことがあった。一体一体が皆大きいので、クレイスは互いの体が干渉しあってしまい、全方位から何体もの固体数で攻め込まれることがなかったのだ。もしこれが森であったカラドのような俊敏かつ小型であったのなら、俺はもしかすると死んでいたかもしれない。

 もう一つは、シパーソンの言うとおり奴らの知能はけして高くはない……ということだ。どう考えてもここは二体で挟み撃ちして攻撃した方が有効だろうと思われる場面においてでも、一体のみががむしゃらに攻め込んできたり、逆に一匹が攻撃した方がいいだろうシーンでは、目についただけという理由だろうクレイスが二体同タイミングで襲い掛かってきて、お互いが身体を激しく衝突しあうという事故も発生していた。

 おかげで俺はこうしてまだ生き残れている。

「ガアアアアアアアアアアア!」

 劣勢だという事を、脳ではなく直感で悟ったのだろうか――今日一番とすら感じるくらいの派手な雄叫びを上げながら、一体のクレイスが俺へとわき目も振らず猪突猛進に突撃してくる。

「うおおおおおおおお!」

 俺は気合を振り絞るように、負けじと雄叫びを上げながら立ち向かった。先ほどまでまったく疲れを感じなかったのだが、じょじょに広がり出してきた疲労を振り払うよう力を腕に込め、左手を相手に構えながらクレイスに突っ込んでいく。魔法は一定の距離ではないと射程外で届く前に霧散してしまうのだ。

 氷結させて、すかさず両足を切り落とす。

 地面に転がった体。首目がけて剣を薙ぎ払おうとしたところで、別の固体がやってきた。後ろに跳び退がって、上から振り下ろされた鉄槌のような腕の一撃、その被弾範囲から抜け出すと、魔法で攻撃し足首を固める。やはりそいつの足もすぐさま切断した。

 そうして倒れ伏している二体のクレイスの首を、一体は居合いで勢い良く跳ね飛ばしてやる。そのまま再び剣を納めることなく、すぐにもう一体の首も切りつけた。剣が途中で肉の壁に阻まれ一瞬で切り落とせず勢いが止まってしまったが、再び力を込めてから斬り裂いた。

 俺は剣を地面に突き刺し、柄部分に両手をかけて荒い息を上げる。

ふっ、ふっ、と荒げた気息を整えるようにしてから、『剣』を死体から引き抜いて、俺自らがクレイス目がけ接近していく。まず、この期に及んでどういう思考回路しているのか、悠々と立ち止まっていた一匹を油断なく瞬時に仕留めると、残りの二匹に一挙に氷結魔法を連打して動きを制止させると、どちらも居合いで切り伏せた。

 …………終わった、よな……これで…………。


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