魔女の日記 第四巻 2
「……ったく。なんでコイツと飲むといつも背負って帰らなくちゃいけないんだ……」
俺は帰り道、背中でぐったりとするアニマを背負って歩きながら1人で呟いた。
「……すいません。タイラー……」
アニマは未だに酔っているままなのか、丁寧口調のままである。
「別に気にしてねぇよ。だけど……どうしたんだよ? 教えてくれよ。お前がそんなに酒を飲む理由」
すると、しばらくの沈黙の後、背中越しにアニマの大きな声が聞こえてきた。
「……マジック・ジャンクに戻って一杯お水を飲んだらお話します」
「そうか。じゃあ、さっさと帰るか」
そして、程なくして俺とアニマはマジック・ジャンクに戻った。
一杯コップに入った水を差し出すと、アニマはそれをゴクリと飲み干した。
「……悪かったわね。見苦しい所を見せて」
元の口調に戻ったアニマは、恥ずかしそうに俺に言った。
「別にいいさ。酒で見苦しくなる人間は腐るほど見たことあるし、俺自身もそういう経験はあるからな」
俺がそう言うと、アニマは暫く黙ってしまった。そして、しばらくの間、またしても沈黙が俺とアニマを包む。
「……あ。そろそろ帰るかな……フォルリとセピアが心配しているだろうし……」
そういって俺が立ち上がろうとした、その時だった。
「待って」
アニマは短くそう言った。俺は瞬時に動きを止め、ゆっくりとアニマの方へ振り返る。
「……どうした? まだ、何か用か」
「……見せたいものがあるの。分かるわよね?」
アニマがそう言った瞬間、俺はすぐにその言葉の意味がわかった。
「……ああ。なるほど。そういうことなら、もう少し付きあおう」
俺がそう言うとアニマは安心したように優しく微笑んだ。そして、立ち上がり、店の奥へ入ったかと思うと、すぐに一冊の本を持って戻ってきた。
「これ、私と一緒に見てくれるかしら」
「え? お前と?」
「……ええ。これまでの日記は……タイラー一人でも見せることができたわ。でも、これからの日記は……」
そういって悲しそうな顔をするアニマ。
俺はその表情の意味が、アニマに見え隠れする俺の知らない過去のせいであることが理解できた。
「そうか。お前がそういうなら……そうしよう」
俺がそう言うと、アニマは小さく頷いた。
「それじゃあ……行くわよ」
そういってアニマはゆっくりと日記を開いたのだった。