魔女の日記 第四巻 1
「大体! あの子はいつも人に頼りすぎなのよぉ!」
その日の夜。
俺とアニマは近くの街の酒場にいた。
「あ、ああ……そうだな。でも、フォルリはそういう性質の魔女なんだろう?」
「ええ、そうよ……でも! おかしいでしょ? 魔女なら自分で魔法を使いなさいよ! それなのにタイラーにいつもくっ付いちゃって……魔女としての誇りはないのかしら?」
既にアニマは酒をグラスに何杯も飲んでおり、酩酊状態だった。
結局、俺を泊めると言い出したその日の夜、俺とアニマは酒場に行った……正確には、アニマが俺を連れ出してきたのだが……
「そうはいってもだなぁ……フォルリだって頑張っているんだろう?」
俺がそう言うと、アニマは持っていたグラスを机にいきなりバンと叩きつけた。
少し大きな音がして、周りの客がこちらを観る。
「……タイラー。アナタねぇ、前から思っていたんだけど、フォルリに甘すぎるんじゃないかしら?」
「え……い、いや。普通だろ。大体、フォルリには助けられたし……」
俺がそれを言うと、アニマは大きくため息をついた。
「あぁ~……はいはい。そうよね~。あの危険な妬まし人形からアナタを守ったのは、私よりも数段魔法の技術に劣るフォルリなのよね~」
馬鹿にしたようにそういうアニマ。さすがに俺としても、その言い方はどうかと思った。
「……おいおい。アニマ。それくらいにしておけよ」
「……なによ。本当のことを言って何が悪いのよ……」
そういってアニマはまたしても酒を一気に飲み干す。
「ちょっと! お酒が足りないわよ! さっさと持って来なさい!」
アニマがそう叫ぶと、店主が慌ててこちらに向かって酒を持っていくようにウェイターに指示する。
「アニマ……一体どうしたっていうんだよ」
さすがの俺としても心配になってきた。
アニマは不機嫌そうに頬杖をついている。
「……アナタがこうして平和にお酒を飲めているのも……私のおかげなのよ。私は……フォルリの何倍も……苦労したんです!」
と、なぜかアニマはいきなり口調が変わってしまった。
この口調は……かつて俺が覗き見た日記に出てきた、幼いアニマの口調である。
「それなのに……タイラー! アナタはどうしてもっと私に優しくしないんですか!?」
「ちょ、ちょっと……落ち着けよ。アニマ……」
「落ち着いていられません! もう分かりました! 私は倒れるまで飲みます! 倒れたらアナタが背負って私をつれて帰って下さい! いいですね!?」
そういってアニマはまたしても一気にグラスを空にする。
どうやら、本気でぶっ倒れるまで飲み続けるようだ。
そして、結局、アニマはその後も飲み続け、俺が背負ってマジック・ジャンクまで戻ることになったのだった。