幻影水晶 7
それから俺は屋敷に戻り、またベッドだけがある部屋に通された。
メイドも俺の部屋に入ってくると、何も言わずにずっと部屋の隅に突っ立っている。
「……なぁ、アンタ。ここはどこなんだよ?」
俺がそう訊くと、メイドは目だけをちらりとこちらに向けてくる。
「どこ、でございますか。ここは、若様が望む場所、とでも言えばよろしいのでしょうか」
「俺が望む場所? 望んでねぇよ。こんなの」
「では、どのような場所を望むのです?」
「え……どのような、って……」
望む……いや。望んでいない。俺は別にこの場所以外の場所のことを知らない。
知っているような気がするのだけれど、知るはずがないのだ。
「思い浮かばないのですよね。それは、若様にとってこの場所が一番良い場所だからです」
「……アンタにとっても、か?」
「はい。ワタクシの最善の居場所は、若様のいる場所、ですから」
メイドは何のためらいもなくそう言った。どうやら、このメイドの忠誠心は余程のもののようである。
「けどなぁ……アンタと俺だけしかいないってのは、さすがにどうかと思うんだけど……」
「そうでしょうか? ワタクシのこと、お嫌いですか?」
「え? 嫌いって……俺、アンタとさっき会ったばかりだし……」
「会ったばかり? 何をおっしゃっているのですか。ワタクシと若様は、ずっとこの場所で二人きりで過ごしてきたではないですか」
「え……そ、そうだっけ?」
なんだか言われてみればそんな気がしてきた……
そんなはずはないのだが……頭が働かない。
目の前のメイドが言っていることがすべて真実のように思えてくる……
だとすると、俺は一体……
「若様。何も悩む必要はないのです。ワタクシと若様がここにいる……それだけで、良いではないのですか?」
そういってメイドは俺を安心させるように微笑む。その顔を見ていると、なんだか俺も安心してきてしまった。
「そ……そう……かもな」
「……ええ。そうよ。だから、もう何も考えないでね」
メイドが何言ったような気がしたが、俺は聞き取れなかった。
なんだか段々と眠くなってきた。俺はそのままベッドに横になる。
瞼が閉じる最後、メイドの方を見る。
メイドはこの上なく嬉しそうに、妖艶に微笑んでいたのだった。