幻影水晶 6
「え……なんだこれ……」
屋敷の扉を開けると、俺は思わず目を疑った。
目の前に広がるのは、どこまでも続いているような庭だった。
普通の庭ではない。まるで地平線の彼方まで続いているかのような……そんな感覚さえ起こさせる広さだったのだ。
「さぁ、若様。お散歩をしましょう」
俺が驚いている様子も気にもせずに、メイドは歩き始めた。俺もそれに併せて歩き出す。
庭には道が整備されている。俺はとりあえず道を歩き始めた。
庭には色とりどりの花が植えられている。どれも見事に整備されているのが分かった。
「……この庭は、アンタが整備しているのか?」
「はい。この庭も若様のお屋敷の一部。管理するのはワタクシの仕事ですから」
淡々としてそう受け答えするメイド。
「……屋敷の出口は、どこにあるんだ?」
「出口? なぜそのようなことを聞かれるのです?」
メイドは俺の質問に驚いたような顔で答えた。
「え……あ、えっと……どうやってこの屋敷から出るのか知りたくて……」
「出る必要などございません。若様はこのお屋敷の敷地内にずっといればよいのです」
「え……ちょ、ちょっと待てよ。ずっと、って……」
「何か問題でもあるのですか? 外は危険です。このお屋敷の敷地内にいれば、ワタクシも若様をお守りすることができます。ですから、若様はお屋敷から一歩も、外に出てはいけないのです」
メイドは至極真面目な顔でそう言った。俺はその評定に少し恐怖すら感じる。
これではまるで監禁だ。このメイドは俺を監禁するのが目的なのか?
「……どうされましたか? 若様、顔色が優れないようですが……」
と、メイドは急に心配そうな顔で俺を観る。
「え……いや……なんでもない」
しかし、不思議なことに、身の危険は感じなかった。
このメイドの言う通り、この屋敷にずっといて、メイドの庇護のもとにいるのが俺の正しい生き方だと思えてくるのだ。
そして、それが正しいと思えてしまうことに、俺はまた恐怖した。
「きっと若様もお疲れになったのでしょう。そろそろお屋敷の中に入りましょうね」
メイドはそういって俺に背を向けて屋敷の方に歩き出した。
俺はもう一度、広大な庭を見渡す。
やはり出口は見えない。
「……なんなんだよ。ここは……」
俺はそう呟いてから、屋敷の方に戻ったのだった。