幻影水晶 3
「……きて下さい。起きて下さい、若様」
「……ん?」
俺は誰かの呼声で目を覚ます。
「お目覚めですか。若様」
「え……え?」
俺は目を開けて驚いた。
目の前にいるのは、メイド姿の女性だった。
黒く長い髪に、切れ長の瞳……その瞳の下のホクロが彼女の色っぽさを強調していた。
「え、えっと……あれ?」
「若様? どうかされましたか?」
「え……あ、ああ。いや、俺……え?」
俺が混乱している理由は……たくさんあった。
まず、ここはどこか? いきなり目覚めたここは一体どこなのか、俺は理解できなかった。
さらに、目の前のメイド服の美女。どうして彼女はメイド服を着て、俺に話しかけてきているのか。
「え、えっと……あのよぉ、えっと……アンタ、誰だ?」
俺がそう訊ねるとメイドはふっと馬鹿にしたように俺を笑った。その笑い方もどこかで見覚えがあるのだが、俺は思い出せなかった。
「ワタクシですか? メイドです。若様のお世話をするメイドです」
「そ、それはなんとなくわかる……だけど、アンタの名前は?」
「名前? メイドに名前はありません。若様の好きなようにお呼び下さい」
そういってメイドは扉を開けて部屋を出ていこうとする。
「あ、ちょ、ちょっと待て!」
俺は慌ててメイドを呼び止める。
「はい? なんでしょうか?」
「その……お、俺は……誰なんだ?」
俺がそう訊くと、メイドはまたしても不敵に微笑んだ。
「若様は、若様です。ワタクシがお世話し、お守りするべきご主人様でございます」
それだけ言うと、メイドは部屋を出て行ってしまった。
俺は呆然としながら、初めて見る広すぎる部屋を見渡していた。