依頼完了?
「……で、フォルリと協力して、魔物は倒したのね」
それから数日後、俺は人型モードのフォルリと共にマジック・ジャンクを訪れていた。
「ああ、そうだよ。どっかの誰かさんがずっと眠っている間に俺とフォルリだけで倒したんだよ」
俺がそう言うと、アニマは酷くばつの悪そうな顔をする。
「……悪かったわね」
「あぁ? なんだって? よく聞こえねぇなぁ?」
すると、アニマは悔しそうに下唇をかみながら、俺を睨みつける。
「悪かった……わね」
もう一度、アニマははっきりと聞こえるようにそう言った。
俺は思わず満足気にうんうんと頷いてしまった。
なぜなら、こんなアニマは今まで見たことがなかったからだ。
いつもは高飛車に振舞っているアニマが、今回ばかりは完全に俺達にデカイ顔をすることはできない。
もっとも、最終的に妬まし人形を倒したのは、アニマであるが……細かいことはアニマには話していない。
「しかしよぉ、魔物の討伐ってのも大したこと無いよなぁ? アニマよ。こんな簡単なことは俺とフォルリに任せてもらってもいいんだぜ?」
俺がそういうと、アニマはキッと睨みつけた。
しかし、それは俺を睨みつけたのではない。
フォルリを睨みつけたのだ。
睨みつけられフォルリは、蛇に睨まれた蛙のように、ビクッと身体を反応させた。
「……タイラー。アナタ、フォルリさえいれば、もう私は用済みだっていいたいの?」
「え……あ、いや……そう言っているわけじゃないが……」
思わず俺も戸惑いながらそう応える。
「た、タイラー。もう、帰るべき」
と、いきなりフォルリが俺の手を掴んできた。
「はぁ? なんだよ、フォルリ。いきなり……」
「とにかく、帰る」
見るとフォルリは怯えた顔でアニマを見ている。俺も同じようにアニマを観る。
アニマは未だにじっとフォルリを見ていた。その瞳はなんというか……黒く燃え上がっていたのだ。まるでアニマが魔法として使用するあの黒い炎のように。
「あ……ああ。わかった。じゃ、じゃあな、アニマ……」
「タイラー」
と、俺がそのままマジック・ジャンクから出ようとすると、アニマが背中越しに呼びかけてきた。
「え……な、なんだ? アニマ」
俺は振り返ってアニマを観る。
「……ホントに、ごめんなさい。今度は、絶対……アナタを私が守るから……」
その言葉はまるで、俺の心に直接話しかけているかのように、ものすごく重い響きを伴ったものだった。
思わず俺は呆けたようにアニマをじっと観る。
「タイラー。何しているの?」
と、フォルリに言われて俺は我に返った。相変らず不審な目つきで俺を見ているアニマを見ながら俺とフォルリはマジック・ジャンクから出たのだった。
「タイラー、あまり、アニマに酷い事、言ってはダメ」
マジック・ジャンクから出てしばらく歩いて、フォルリは不安そうな顔で俺にそう言った。
「ああ? なんでだよ。アイツは自分で依頼を受けておいて、俺達を酷い目に合わせたんだぜ? 当然だろ?」
「ダメ。アニマ、すごく怒ってた。そして、私を、妬んでた……」
「はぁ? 妬んだって……おいおい。あの人形じゃねぇんだからさ」
「……私、アニマのこと知っている。アニマ、悪い子じゃない。でも、自分の所有物、他人に取られるの、すごく嫌がる……」
「はぁ? なんじゃそりゃ……じゃあ、何か? アイツが妬まし人形にでもなるっていうのかよ? もう人形は消滅したんだ。あの代償魔宝具は存在しないんだ。心配いらないだろ?」
しかし、フォルリはあくまで心配なようだった。足を止めて、俺のことをじっと観る。
「……アニマの目つき、あの人形の目つきに、似ていた。少し、不味いかも……」
フォルリはボソッと、そんな怖いことを呟いたのだった。