人形屋敷の攻防 5
「……フフッ。残念ダッタワネ……モウ、オワリ……」
人形は不気味に微笑みながら俺を観る。
俺は日記を手にしたまま、物怖じせずに、人形に対峙した。
「……お前、人形だな」
「……ええ。そうよ。私はもう人形なの。でも、足と手があれば完成するわ。だから、早く手を足を――」
「違う。お前は、最初から人形だったんだ」
俺がそう言うと、人形は少しピクリと表情を動かした。
俺は自分の推理が正しいことを確信した。
「そう。妬まし人形は代償魔宝具……俺が前に見た代償魔宝具もそうだった。お前たちは人間を騙して、その身体を乗っ取ろうとする……つまり、お前はこの日記の持ち主から顔と魂を騙して奪いとったんだ」
俺がそう言い放つと、人形はピクリとも動かなくなった。しかし、次の瞬間にはカチャカチャと奇妙な音を立てて笑い出した。
「……エエ。そうよ。私は人形。元から人形よ。あの子には悪いことをしたわね。でもね……アナタには想像もつかないでしょうね。永遠の時を、動けない人形のまま過ごすなんて……だから、あの子から顔と魂を奪って、ようやく私は動くことができるようになった。後少し……もう少しで私は、人間になることができるのよ!」
狂気を秘めた瞳で、人形はそういった。
妬まし人形。
人間を妬み、人間になることを夢見る人形……それが、ヤツの正体だったのだ。
「……フッ。哀れだな。お前はずっと人形のままだ。哀れな女の子の魂と顔を奪って、仮に足と手を手に入れても、お前は醜い人形のままだよ」
俺が馬鹿にしたようにそういうと、人形は憤怒の形相で俺を見た。
「な、なんですって……フザケルナ……ワタシハ……ニンゲンダ!」
そういってナイフを手にした人形が俺の方に襲いかかってこようとするその時だった。
「こっちだ!」
と、フォルリの声が聞こえた。人形は咄嗟に振り返る。
其の人形に向かって、人型モードのフォルリは、バケツに入ったなにかの液体を一気に浴びせかけた。
「な……何? アナタ……誰?」
「知る必要はない。お前、このまま消滅する」
「え……何を言っているの? この液体……え?」
「そう。それ、水、違う」
そう言うフォルリが手にしていたのは、先ほど応接間にあった蝋燭だった。
「ま、まさか! ヤメナサイ!」
油まみれになった人形が叫んだその時には、既にフォルリは人形に向かって火の付いていた蝋燭を投げつけていたのだった。