魔宝石
込められる魔力は、宝石の輝き。
「というか……なぁ、アニマ」
「何よ。いきなり」
相変らず俺以外いない「マジック・ジャンク」で、俺は適当に物品を眺めながらアニマに訊ねた。
「……お前、魔女なんだよな?」
「はぁ? なにそれ。当たり前でしょ。魔女よ」
自分でそれを潔く認めるのもどうなのかと思ったが、そのまま俺は先を続ける。
「いや……その、魔女っていうのは、もっとこう……魔法って感じの魔法を使わないのか?」
「えっと……ごめんなさい、タイラー。アナタ何を言っているの?」
「だから……もっと炎がばぁーっと出たり、雷がバチバチーってなったりよぉ?」
俺の言葉を訊いて、アニマはようやくわかったらしい。
そして、わざとらしく大きくため息をついた。
「何、今それをやって見せろっていうの?」
「……いや、まぁ、見てみたいなぁ、って話だよ」
すると、アニマはいきなり店の奥に入っていってしまった。俺はまた何かしらろくでもないガラクタが出てくるのかと思い、少し楽しみにしながら待っている。
「そんなお馬鹿なことを云うタイラーには、これ」
そういってアニマは俺の手に何かを載せた。
見ると、手の上には、綺麗な宝石がのっていた。
「……なんだこれ?」
「魔宝石よ」
「……魔宝石? これも魔宝具なのか?」
「ええ。火炎とか、雷撃とか……そういう出したいんでしょ? これを使えば、簡単にできるわよ」
言われていることの意味がわからず、俺はもう一度宝石を見る。
「それを握って、魔法を使いたいって念じればいいのよ。この赤い宝石なんかは、たぶん炎が出るわよ」
「……マジで?」
「ええ。ほら、外に出てやってみましょ」
そういって俺とアニマは外に出た。なるべく店から離れ、俺は宝石を握る。
「えっと……どれくらいの炎が出るんだ?」
「さぁ? わからないわよ」
「あのなぁ……ったく、わかった。とりあえずやってみるぞ」
俺はそう言って、宝石を右手で強く握り、そのまま魔法が使えるよう念じた。
「……何も起こらないぞ?」
「イメージが悪いのよ。タイラー、もっと魔法を使うイメージをしなさい」
魔法を使うイメージ……よくわからなかったが、魔法っていうのは……手から出るものなのだろうか?
俺はなんとなくそう思い、左手を前にかざして、そのままもう一度、右手で強く宝石を握った。
「うおっ!?」
すると、唐突に手のひらから黒い炎が出た。
あまりにも信じられない光景に、俺は思わず呆然としてしまった。
「あら、成功じゃない。タイラー、魔法の才能あるんじゃない?」
「あ、あはは……あれ?」
と、俺は右手の手のひらを開く。
見ると、宝石は粉々になってしまっていた。
「あ……すまん、アニマ」
そういって俺はアニマに粉々になった宝石を見せる。
「ああ、別にいいのよ。むしろ、商品に協力してくれたから、弁償代はチャラにしておいてあげるわ」
「……はぁ?」
「その魔宝具、私が作ったのよ。ただの宝石に私の魔力を込めてね」
そう言われて俺はポカンとしてしまった。嬉しそうにアニマは目を細める。
「ふふっ……魔女や魔法使いでもない人間が魔法を使うなんて、魔力の暴走が起きないか不安だったけど、どうやら大丈夫みたいね」
「え……お、お前、もしかして、俺を実験台にしたのか?」
すると、小さく舌を出して、アニマはウィンクした。
なんとも呆れてしまったが、今出た炎、あれはアニマの魔力に依るものだということになる。
そうなると、やはり、コイツは魔女ってことなんだよな……
「……なぁ、アニマ。実験台になったんだから、教えてくれ。この魔力、お前の本気が込められていたのか?」
すると、アニマは俺の質問が以外だったのか、少し驚いたようだったが、すぐに相変らずの不敵な笑みで俺を見る。
「いいわよ? 本気、見せてあげても」
そう言われて俺は、先ほどの大きな炎を思い出した。
「……いや、やめておく」
「そう。それが懸命な判断よ」
ニッコリと笑って、アニマはそう言ったのだった。