ある少女の日記
日記は、確かに普通の日記だった。
開いてみても、記憶の中に飲み込まれることもなかった。
俺は日記を読み始める。
日記には日付は書いていなかった。いきなり文章が書き始められている。
『今日、お父様が人形を買ってきてくれた。大きな人形。私と同じくらいの背格好の人形……私はその人形を友達にすることにした。どこにもいけない私のたった1人の友達……』
「……なんだこりゃ?」
始めの頁に書いてあるのはそれだけだった。俺は気になって頁をめくる。
『今日、あの人が私の家に来てくれた。少しの時間だけお話して、あの人は帰ってしまった……きっと、私が動けないから、あの人は私と一緒にいたくないのね……』
「……なるほど。この日記書いたやつは、動けない身体だったみたいだな」
「肯定。おそらく、この館の人間」
フォルリの其の言葉を聞いて、確かにそう思った。どうやら、この館には動けない身体の人物が1人いた……しかも「お父様」と言っているのと、文体からして、この部屋にいたのはこの館の主人の娘のようである。
「……ん? 待てよ。この日記、随分古い感じだが……主人は生きているんだよな?」
紙の黄ばみ具合からして、どう考えても何十年も前の日記である。
「……タイラー。頁、めくって」
フォルリの声は少し重いものだった。俺はそのまま頁をめくる。
『奇跡が起きたわ! 今日、お父様が買ってきた人形が私と会話したの! お人形は動けない私を可哀想と言ってくれた……それで、1つの提案を持ち出してきたわ……私がどうするかは……まだ考え中』
「……おい、フォルリ」
「その通り。この人形、妬まし人形」
俺がそう言うと本の姿のフォルリは先に結論を言った。
どうやら、この館の主人は知ってか知らずか、娘に妬まし人形を買ってきてしまったらしい。
「しかし……人形が喋るなんてこと、あるのかよ?」
「妬まし人形、喋ること可能。喋って契約、持ち出してくる」
「契約……アニマの言っていたことか」
俺は嫌な予感を抱きながら次の頁をめくった。