妬まし人形 3
「ご主人様は、今は、いらっしゃいません。お帰り下さい」
メイド服の女の子がそう言って扉を閉めようとする刹那、アニマは片足を扉の中に入れ込んだ。
「じゃあ、お屋敷の中でお待ちするのはダメかしら? 私、アナタのご主人様に大事な用事があるのよ」
メイド服の女の子はさも迷惑そうな顔でアニマを見る。
アニマはそれに動じずに、ニンマリと微笑む。
「……わかりました。お入り下さい」
結局アニマの押しが効いたのか、メイドは諦めて俺達に向けて扉を開いた。
アニマが先に入り、フォルリを手に持ったままの俺もその後に続く。
屋敷の中は外とは異なり、非常に綺麗な状態だった。
「随分と綺麗ね。アナタが全部掃除しているの?」
「ええ。外の方までは、手が回らないものですから」
メイドの女の子は申し訳無さそうにそう言った。
それにしても、綺麗……というか、綺麗過ぎる。
外とは逆の雰囲気で、人が住んでいるような生活感が感じられないくらいにあまりにも綺麗過ぎるのだ。
「こちらが、応接間となっております」
そういってメイドは俺達を奥の部屋に通した。
長いテーブルが置かれ、高級そうな椅子が配置されている。テーブルの上には蝋燭の炎が煌々ときらめいていた。
「ここで、待っていろってこと?」
「はい。ご主人様は、後数時間もすればお帰りになると思います」
無機質にそう喋るメイドの女の子。
「わかったわ。それにしても喉が乾いたわ……お茶とか、出してもらえるかしら?」
アニマが図々しくもそう言うと、メイドの女の子は深々と頭を下げて、応接間から出て行った。
「お、おい……アニマ、大丈夫なのかよ」
俺が訊ねると、アニマはキョトンとした顔で俺を見る。
「大丈夫って……何が?」
「何がって……なんか、この屋敷変だぞ?」
「そう? 広いお屋敷なんて大体こんな感じよ」
アニマはまるで気にしていないようだった。
「……おい、フォルリ。お前はどう思う?」
俺は小声で、手元にある魔宝書に向かって話しかけた。
「フォルリ、タイラーの意見、賛同する」
「……ということは、お前もこの屋敷、変だって思うよな?」
「肯定。何か違う。普通の家とは、異なる」
とは言っても何がどうおかしいのか……それは俺にもわからなかった。
「どうかされましたか?」
「え? うおっ!?」
と。いきなり背後から話しかけられたので俺は驚いてしまった。
見ると、先ほどのメイドが、お茶を運んできてくれたのだった。
「お茶でございます」
「あ……ありがとう」
俺はビビリながらもお茶を受け取る。
でも、一番おかしいのは……やはりあのメイドな気がする……
なんとなくだが、俺はそれだけは確信していたのだった。