妬まし人形 2
「……ここは?」
俺は周囲を見回しながらアニマにそう訊ねる。
「そうねぇ……まぁ、マジック・ジャンクからは大分離れた所、としか言いようがないわね」
身も蓋もないその物言いに、俺はもう何も言えなくなってしまった。
周囲は濃い霧に囲まれていて、なんだか不気味な雰囲気である。
「さて、行くわよ」
そんな状況だというのにアニマは動じていないようだった。フォルリもそれに付いていこうとする。
「お、おい、フォルリ」
「何? タイラー」
俺は慌ててフォルリを呼び止めた。
「お前は、俺の護身のために連れてきたんだよ。さっさと本になってくれ」
「了解。フォルリ、タイラー守る」
素直は魔女は俺がそう言うと、あっという間に本に变化した。俺はその魔宝書を大事に持って、そのままアニマの後を追う。
しばらく歩くと、目の前になにやら黒い物陰が表れた。
「え……お、おい、アニマ……あれ、魔物か?」
俺が怯えた様子でそう言うと、アニマは大きくため息をついた。
「違うわよ。あれはただのお屋敷よ」
そう言われてよく見ると、確かにそれは家のように見える。家といっても、俺の小屋のような家ではなく、貴族が住むような大きな家である。
「お、おお……ここに、妬まし人形をもっているヤツが住んでいるのか……」
俺は少し期待した。これだけデカイ家に住んでいるならば、それ相応の金目になりそうなものを持っていそうだと思ったからである。
「そうね……でも、あんまり良からぬことは考えない方がいいわよ」
と、考えを見透かされているようで、俺はアニマにそう言われてしまった。
「わ、わかっているさ……と、とにかく行こうぜ」
俺は適当にごまかし、今度こそ、アニマと共に屋敷に向かって歩き出す。
屋敷はあまり丁寧に管理されていないようだった。雑草が伸び放題だし、そもそも、門の部分は既に朽ち果ててしまっている。
「……なぁ、こんな屋敷に人、住んでいるのか?」
「そうねぇ……魔物になっちゃっているかもね」
そう言われて俺は思わずフォルリをギュッと握りしめる。
「タイラー。痛い」
と、本のフォルリは辛そうにそう言った。アニマは俺を見てニヤニヤしている。
「大丈夫よ。そんな心配しないで。さぁ、行きましょう」
そういって今度はアニマが先頭を歩き出す。そのまま屋敷のドアをコンコンと、三回ノックした。
「は……はい?」
と、扉の向こうから不安そうな声が聞こえて来た。
「ちょっといいかしら? このお屋敷のご主人はいる?」
アニマがそう言うと、扉がゆっくりと開く。
中から出てきたのは魔物……ではなく、メイド服を着た小さな女の子だった。