魔女の日記 第三巻(後編)
「……あれ? もう戻ってきたぞ?」
俺は気付くと自分の部屋の中にいた。
「短い。私の思い出……」
隣にいたフォルリも、残念そうにそう言った。
「あー……でも、アニマ、やっぱりいいやつだよな……昔は」
俺がそう言うとフォルリは苦笑いする。
「ま……なんでもいいけどよぉ……フォルリ、一つ聞いていいか?」
「私に? なんでも聞いて欲しい」
フォルリは意外そうな顔で俺のことを目を丸くして見る。
俺は少しためらったが、フォルリのためにも訊ねることにした。
「えっと……俺でいいんだよな? お前を、その……所有するのは」
俺がそう言うと、フォルリは意外そうな顔で俺のことを見ていた。
「所有……してくれるの?」
「まぁ……俺は魔法使いじゃないし、お前がいないと魔法なんて使えないけど……それでもいいなら……貰ってやらないこともない」
俺がそう言うと、フォルリはしばらく固まってしまった。その場に突っ立ったまま、俺のことを呆然として見ている。
「……どうした? フォルリ」
すると、フォルリの目からいきなり一筋の涙が流れた。
「え……フォルリ?」
「……嬉しい。始めて……私、所有者になってくれる人、表れた」
「あ……ま、まぁ、そうか……あ。でも、飯ができたらさっさと物置から出てこいよ?」
俺がそういうと、フォルリは泣きながらも、懸命に笑顔を作って、ニッコリと微笑んだ。
「……で、そんなことを言ってあげたわけ?」
翌日、マジック・ジャンクに行くと、ニヤニヤとしながらアニマは俺の話を聞いてた。
「……ああ、そうだよ。大体、お前が俺にフォルリを押し付けたんだろうが。それなのに、なんで俺がアイツに気を使わなくちゃいけないんだよ」
「あら。言ったでしょ? あの子だって繊細な女の子なのよ。魔女はみんな、傷つきやすくて自分勝手なの」
「……ったく、魔女ってのは、どうしようもない奴等だな」
俺が忌々しげにそう言った。しかし、アニマはニヤニヤ笑うのをやめ、急に真剣な顔になって俺を見た。
「でも……ありがとう」
「……は? なんだよ、急に……」
「……私は、フォルリのことをきちんと分かってあげていなかった。あの子の所有者になってあげることもしなかった……だから……」
そう言われるとなんとも言えなくなってしまった。
結局、俺はアニマやフォルリが今よりも幼かった頃、一体何があったのかわかっていない。どういう状況だったのかもわかっていない。
それなのに、俺はわかったような顔をしてアニマやフォルリと関わってしまっている……それは正しいことなのだろうか。
「あら? どうしたの? 柄にもなく深刻な顔しちゃって」
「え? あ、ああ……」
アニマに言われてようやく俺は我に返った。
……いや、考えても仕方ない。俺にとってアニマもフォルリも、今のコイツらが俺の知っているアニマやフォルリなのだ。それ以上のことを考える必要もないだろう。
「……ったく、よくわかんねぇけど、今日はなんだか調子が悪いぜ。博打でもやってくるわ」
「あら……そういう時って、絶対負けるわよ」
「うるせぇ。またな」
俺はそういってアニマに別れを告げた。アニマはいつものような不敵な笑みで俺のことを見送っていたのだった。