アナタも今日から魔法使い 1
「ただいま」
それから、俺は自分の家に帰ってきた。
「おお、主よ。帰ってきたか」
セピアが帰ってきた俺を迎えてくれる。
「……ん? フォルリは?」
「ん? ああ。あの魔女か。ヤツならまた物置で本のフリをしておるぞ」
セピアは呆れたようにそう言うと、わざとらしくため息をついた。
「しかし……わからんヤツじゃのぉ。本のフリをするのが好きな魔女などと……我等にもさっぱり理解できぬ」
「……お前だって、人間のフリをしているじゃないか」
「むっ。何を言うか。我等は精霊として顕現しておるのじゃ。ヤツのように意味もなく本のフリなどしているわけではない」
セピアは腕組みをして憮然としてそう言った。まぁ、本のフリをするというのはどう考えてもおかしいというのは俺にも理解できる。
「ま、なんでもいいや。とりあえず、そろそろ飯だろ? フォルリを連れてくるから、飯の準備していてくれ」
「わかった。早く連れてくるのじゃよ?」
俺はセピアにそう言って、そのまま物置に向かった。
当初、俺の狭い家でどうやって寝るかは考えものだった。
古魔宝具の精霊であるセピアは精霊であるから、寝るという点については問題なかったが……フォルリは魔女なのでまた別問題である。
それを俺がフォルリに話した所、フォルリは意外な提案をしてきたのだ。
「フォルリ、いるか?」
俺は物置部屋に向かって叫ぶ。埃っぽい部屋の中には、適当に積まれたガラクタと、少々の本が置いてあった。
「……いないじゃないか」
「いる。ここ」
俺は声のした方に目をやる。そこには埃まみれの机の上に、一冊だけ黒い装丁の本が置いてあった。
「お前なぁ……飯だ。早く来い」
そう言うと、本はにわかに輝きだす。そして、あっという間に目の前には黒いローブを着た、長身の魔女……フォルリ・ティアードが立っていた。
フォルリがしてきた提案……それは、物置を自分の部屋にしたいというものだった。
フォルリ曰く、俺の家の中でもっともくつろげる場所が、この埃っぽい物置なのだという。
「……ったく。なんで物置なんだよ」
「タイラー、何か言った?」
「……いや、何も言ってねぇよ。ほら。ついて来い」
「わかった。同行する」
独特の無機質な喋り方で、フォルリは俺に付いてきたのだった。