回収完了
「いやぁ。お疲れ様でした。これにてノルマ達成です」
嬉しそうに眼鏡の奥の瞳を細くするレファを、俺とアニマは忌々しげに見ていた。
「助かりました。これで、アニマ様の一日延滞のペナルティも解消です。本をお借りになりますか?」
「……いいわ。今は特に必要な本もないし……というか、ホントにいいのよね?」
アニマが訊くとレファは大きく頷いた。
「ええ。もちろんです。『フォルリ・ティアード』はそこのタイラー様が引き取ってくださるということで。いやぁ、正直私も、勝手にいなくなる本には参っていたところですから……『夢見る童話』と『ブック・バード』は、確かに回収していただきましたから」
といっても、ロリナは俺が引き取るのだ。結局、一番割を食っているのは俺ではないのだろうか。
「じゃあ、私達は帰るわよ。レファ、アナタもちょっとは外に出て運動しないと、身体に悪いわよ?」
「ええ。ありがとうございます。図書館はいつでもアニマ様のご利用をお待ちしていますから」
そういって、俺とアニマは図書館を後にした。
「それにしても……酷い目にあったな……」
「ええ。そうね」
マジック・ジャンクに戻ってきた俺とアニマは互いに大きくため息をついた。
「……っていうか、あの図書館、なんで利用者に本の回収作業なんかさせるんだよ……」
「レファが極度の出不精なのよ。私が325年前に図書館に本を借りに行ってから、一度も外に出たこと、ないんじゃないかしら」
アニマだって引きこもりがちだとは思うが、そのアニマに出不精と言われるのだから、あの司書は一体どれくらいあの図書館に引きこもっているというのだろうか……
「しかし、あの図書館、あんな本しかないのかよ? もっとまともな本はないのか?」
「ないこともないわよ。普通の魔宝書だってあるし……ただまともな本の倍以上に、おかしな本が多いかしらね」
アニマは大きく伸びをして俺にそう言った。まぁ、確かにまともな本がなさそうな雰囲気はあの司書からでも感じ取れることは出来たが。
「そういえば、フォルリは大丈夫?」
「え? ああ……アイツか」
俺がそう言われて嫌な気分になった。
フォルリ……本のフリをするのが好きな魔女というおかしな存在
またしても俺の家におかしな居候が増えてしまったのである。
「……なぁ、アニマ。フォルリってお前知り合いなんだろ? お前が引き取ってくれよ」
「それは……そうなんだけどよ……」
アニマは少し口ごもってしまった。
「なんだよ。ダメな理由、ちゃんと言ってくれよな」
「え……あ、え、えっと……あの子が、私のこと苦手だと思うから……」
「はぁ? なんじゃそりゃ……」
どうにも納得できない理由である。
しかし、アニマの様子からするに、どうにも無理やり押し付けられるような感じでもないようである。
「ったく……まぁ、いいや、今日は、俺は帰るとするかなぁ」
「あ、そう……なんだか、悪いことをしたわね。タイラー」
と、珍しくアニマは俺に謝った。なんだか調子が狂ってしまいそうで俺はそのまま何も言わずアニマに背を向け、帰り道を急いだのだった。