魔宝書の魔女(後編)
「え……っていうことは……コイツ自身が勝手に図書館から逃げ出したから、延滞が起きているってこと?」
アニマはゆっくりと頷いた。
すると、フォルリはいきなり笑顔のままで俺に顔を向けた。そのぎこちない笑顔はなんだか俺の気持ちを不安にさせるものだった。
「な……なんだよ」
「タイラー。アナタがフォルリを借りること、フォルリ、所望する」
「はぁ? ちょ、ちょっと待てよ。俺、魔女じゃないし……魔法も使えないぞ? そ、それに、お前ホントに本なのか? どう見ても人間じゃないか」
すると、それまでずっと無表情だった魔女は、急にニヤリと微笑んだかと思うと、いきなり身体全体からまばゆい光を放った。
そして、次の瞬間には、俺とアニマの前には、魔女ではなく、一冊の黒い装丁の本が床の上に転がっていた。
「……え。これ……何?」
俺が黒い本を指さしながらそう言うと、アニマは大きくため息をついた。
「それが『フォルリ・ティアード』よ」
「コイツ……マジで本なのか……」
「ええ。ま、正確にはこの子は……本のフリをするのが好きな魔女なの」
意味がわからなかったが、俺は思わず黒い本を手にとった。
「タイラー。よろしく」
と、いきなり本から声が聞こえて来た。
「うおっ!? ほ、本が喋った!?」
「驚いた? 本のフォルリ、嫌?」
それで、さすがの俺も、コイツが本当に本に化けているのだということが、一応は理解することが出来た。
「……いや、でも、お前、図書館の本なんだろ? だったら、勝手に俺が借りちゃマズイだろ?」
「フォルリ、タイラー借りない場合、ここから動かない。タイラー、フォルリを借りること、所望する」
「……アニマ。どうすればいいんだ?」
するとアニマもうーんと唸った後で、大きくため息をついた。
「そうねぇ……どうせ、図書館に返した所でまた勝手にどこかに行っちゃうんでしょうし……レファには私から話しておくわ。タイラー。家に持って帰りなさい」
「え!? お、おいおい……また俺の家に変なものが増えるじゃねぇか……」
すると、またしても本がいきなり輝き出した。俺は思わず本を手放してしまう。
「フォルリ、家事手伝い、なんでもする。タイラー、フォルリを家においてほしい」
人間の姿に戻ったフォルリは、懇願するようにそう言ってきた。俺は大きくため息をついてフォルリを見る。
「……家の中では本の姿でいろよ」
「了解。よろしく、タイラー」
嬉しそうな顔で、本のフリをするのが好きだろ言う変人魔女はそう言った。