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魔宝書の魔女(前編)

「……で、ここにその本があるのか?」


 俺とアニマはマジック・ジャンクの地下室にある扉を通って、寂しい土地にやってきていた。

 草木は枯れ、荒涼として風景が広がっている。


「ええ。ある……というか、住んでいるんだけど」

「はぁ? なんじゃそりゃ……」


 俺はアニマの言っている事がいまいち理解できなかった。アニマは俺の疑問を特二期にすることもなく、そのまま先を歩き続ける。

 暫く歩くと、寂しい土地に一軒、ポツンと寂しく立った小さな家があった。家……というよりも小さな小屋のようである。


「……まさか、あそこにあるんじゃないだろうな?」

「ええ。その通りよ」


 アニマは何事もなかったかのようにそう言った。俺はさすがに嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 そのまま、俺とアニマは小屋に向かって歩いて行った。そして、その前に立つと、アニマは何のためらいもなく、其の小屋の扉を開けた。

 扉を開けた途端、埃っぽい部屋が目の前に表れた。


「な……なんだこの部屋……」


 その部屋は異様な状況だった。本棚にはぎっしりと本が敷き詰められており、辺り一面にも本が散らかっていた。


「……え。ここ……誰も……住んでいないんじゃないか?」

「違う。ここ、いる」


 いきなり部屋から聞こえて来た声に俺は驚いた。

 と、いきなりバサバサと本の山が突如として崩れ、その下から一つの人影が表れた。

 黒いローブに、黒い髪……見た目はアニマとよく似ているが……なんというか、すこしぼんやりとしているようにみえる。それに、アニマよりも背が高い。


「フォルリ……アナタ、まだ逃げ出したのね」


 アニマは呆れた様子でその女に言った。すると、女はこちらにやってくる。


「仕方ない。あんな退屈な所、長くいること、無理な話」


 こちらへやってきた女を見て、俺はすぐに納得した。

 この、いかにも胡散臭そうな感じ……コイツも魔女だ。

 ただ、その濁った黒い瞳はアニマ以上になんというか……生気を感じさせなかった。それこそ、本のような無機質さを感じさせる瞳だった。


「アンタ……魔女か?」


 俺が訊ねると、フォルリと呼ばれた女は今俺に気づいたという様子で俺のことを珍しそうに見る。


「アニマ。この男性、誰?」

「……ジョセフ・タイラーよ。私の助手……みたいなものね。そんなことどうでもいいわ。さぁ、魔宝書大図書館に早く戻りなさい」


 すると、フォルリはなぜか俺のことをじっと見ている。さすがの俺もそんな風にじっと見つめられるのはなんだか居心地が悪かった。


「な……なんだよ」

「フォルリ、アナタに興味ある。なぜ、アニマに同行する?」

「はぁ? そんなの関係ないだろ? っていうか、アンタ、本を延滞してんだろ? さっさと返せよ」


 俺がそう言うとフォルリは意外そうな顔で俺を見た。そして、なぜか少し考えこむようにうーんと唸った後で、アニマの方に再び顔を向けた。


「アニマ。私、帰りたくない」

「あのねぇ……じゃあ、どうするのよ。ずっとここにいるつもり?」


 アニマが困ったようにそう言うとフォルリは嬉しそうに俺の方を見る。


「違う。いいこと思いついた。フォルリ、タイラーに借りてもらう」

「……は? 何言ってんだ? 借りているのはお前の方だろ?」


 俺がそう言うと、フォルリはさらに嬉しそうな顔をする。


「問題ない。私、本借りてない。本、私自身」

「……は? アニマ、コイツ何言ってんだ?」


 すると、アニマは大きくため息をついて面倒くさそうにフォルリを見た。


「……最後に回収する本の名前は『フォルリ・ティアード』なのよ」

「フォルリ……え? それって……」


 アニマは憂鬱そうに頷いた。


「そうよ。彼女こそ、その魔宝書そのものなのよ」

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