ブック・バード
「アニマ! そっち行ったぞ!」
俺は大声でそう叫んだ。アニマはそれをわかったのかわからなかったのか、とにかく路地の向こうで待ちぶせしていた。
しかし、恐ろしい勢いで「ソイツ」は走って行く。
「堪忍しなさい!」
アニマが叫んだ。そして、両手を前に出す。
しかし、あと一歩というところでソイツはアニマの手に収まらなかった。そして、アニマの手をすり抜けるようにして、そのままバサバサと空高く飛んでいってしまった。
「……逃げられた。糞……なんで……なんで本が空を飛ぶんだよ!?」
俺は思わず叫んでしまった。
そう。今空を飛んでいるもの……まるで翼のように羽ばたいているそれは、どう見ても鳥……ではなく、本だった。
俺達は鳥のようにすばしっこく地面を走り周り、空を飛ぶことの出来る本を捕まえようとしているのだ。
ブック・バード……名前の通り、本のような鳥……いや、鳥のような本なのか。
とにかくその魔宝書を俺とアニマは回収しようとしていたのだった。
「まったく……これ、完全にレファが逃しただけよね……あんな本が貸し出されるわけないじゃない」
アニマも苛つき気味にそういう。俺もまったく同感だった。
「しかし……どうするんだ? もう大分追い回しているが、なかなか捕まらないぞ?」
「……仕方ないわね。奥の手を使うわ」
そういってアニマはニヤリと微笑むと、懐からパンを取り出した。
「これを使うのよ」
「これ、って……パン?」
アニマは頷いた。
そして、俺とアニマがとりかかったのは、鳥を捕まえるための仕掛けだった。
鳥がパンくずを食べようとして下に来たところを、紐を引っ張り仕掛けを作動させ、上から網を被せて捕まえるというやつだ。
「……なぁ、ホントにこんなんで捕まるのか?」
「ええ。捕まるわ」
俺とアニマは草陰に隠れて様子を伺っていた。しかし、俺にはどうにも納得できなかった。
「というか……お前の魔法を使えば一発なんじゃねぇの?」
「ダメよ。私、鳥を捕まえるために魔法なんて使わないもの」
「そ、それはそうだろうが……あれ、鳥なのか?」
「ええ。空を飛ぶのよ。鳥に決まっているじゃない」
なんだか上手くごまかされているような気がしたが、俺はとりあえず、納得することにした。
「あ」
すると、丁度そこへブック・バードがやってきた。
「今よ!」
アニマは仕掛けを作動させるために紐を引っ張った。するとまるでそれこそ、鳥が捕まる如くに、ブック・バードは網の下に入ってしまった。
俺とアニマは細心の注意を払い、ブック・バードを網からだした。さすがにアニマが本を懐にしまうと、ブック・バードも静かになった。
「……なんか、逃げた鳥を捕まえた感じだったな」
「鳥? 何言っているの。本よ。これは魔宝書」
「は? お前、さっき鳥だって言ったじゃないか」
「さっきは、ね。でも、もうこうして私の懐に入って大人しくしている……これはもう鳥じゃなくて本なのよ」
どうでもいい屁理屈だと思ったので、俺はそれ以上は深く突っ込まなかった。
「……で、最後の一冊はどんな本なんだよ」
俺がそう訊ねると、アニマは大きくため息をついた。
「この本よりも面倒な本よ」
それを聞いて、最後が一番面倒だということを俺は理解したのだった。