魔女の日記 第二巻 3
「で、どうだったかしら?」
次の日、俺はマジック・ジャンクに行き、アニマと話をすることにした。
「うーん……まぁ、大変だった」
「でしょ。まぁ、大変だったわ」
そういってアニマは俺から日記を受け取った。日記を渡した後、しばらくの間俺は何も話すことができなかった。一体何から話したらいいのかわからなかったからである。
「で、他にも何かあるの?」
「え……あー……そうだなぁ……えっと……お前、龍、出せるの?」
俺が困って考えだした答えがそれだった。アニマにとっても予想外だったのか、キョトンとした顔でアニマは俺のことを見る。
「……ふふっ。ええ。そうね。残念だけど、今は出せないのよ。あれも、魔宝具だから」
「え? あれ、魔法じゃないのか?」
「違うわよ。あの魔宝具は……封印したわ。危険だから」
「封印……か」
確かに、あんな巨大な相当大問題な気がする。それなのにアニマはなぜかどうってことないという感じで俺にそう行っていた。
「まぁ、龍に関してはいずれアナタも関わることになるかもしれないわね。で、他には何もないの?」
「え……まぁ、特には」
「そう……じゃあ、私がアナタに聞くわ……アレを見ても、アナタはまだ、私と付き合おうって思うの?」
アニマの言葉には重みがあった。思わず俺が萎縮してしまうくらいに、迫力があった。
しかし、かといって俺は答えに困ることもなかった。
「え? なんで?」
俺は逆にアニマに聞き返した。アニマの方はこれまた拍子抜けだったようである。
「なんで、って……私は、あんな風に、戦場で多くの人の命を奪ったのよ。そんな恐ろしい存在と、アナタはこうして今も話しているのよ?」
少し感情的になりながらも、アニマは先を続ける。俺としてはむしろ、そんな風に言われる方が理解できなかった。
「まぁ……そうかもしれないけど……だからって、俺はお前と付き合うのをやめなきゃいけないのか?」
「え……そ、それは……」
「……確かによぉ。はっきり言えば、怖かったぜ。俺も、もし、あの時代、あの場所にいたら、とてもお前なんかとこうやって普通に離せないのかもしれない。だけど、今のお前なんてのは、俺にとっては、こんなガラクタ魔宝具屋のしがない店主でしかないんだ」
俺がそういうとアニマは呆然として俺を見ていた。そして、小さくため息をついた。
「そっか……私、考えすぎだったわよね」
「ああ、そうだ。お前の悪い癖だ。俺みたいに自分の思った通りに生きる方が、いいんじゃないか?」
俺は本気でそう思っていた。そりゃあ、多少は、昔の知り合いに殺されかかったアニマを元気付けようって言う気はあった。
でも、これまでの人生、賭け事と楽をして生きることしかしてこなかった俺には、何百年と生きている魔女に対してアドバイスできることと言ったら、それしかないと思ったからである。
俺がそういった後、アニマは少し考え込んでいた。そして、ふいに顔を上げると、優しげに俺に微笑む。
「……そうね。悪かったわね。変なこと言って」
「ああ、別に構わないさ」
俺はそう言ってアニマに背を向ける。
「え……今日は帰っちゃうの?」
「ああ。どうせ、今日は、ロクなもの、ないんだろ?」
俺がそういうと、アニマはいつも通りに、鋭い目つきで俺を睨んでくれたのだった。