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魔女の日記 第二巻 2

 セピアの言ったとおり、俺達の方に矢が飛んできても、それは身体をすり抜けた。黒い龍の炎も見事に効かなかった。

 しかし、周囲は阿鼻叫喚の地獄となっていた。黒い炎は総てを焼きつくす。戦場も、人も……

 黒い炎……アニマを思い出す。これは、アニマの仕業だというのか? 俺は信じられなかったが、とにかく先へと向かう。


「うお……デカイな」


 龍の近くまでやってくると、それが以下に巨大な存在かわかった。山のように大きな其の姿……こんなのがいきなり戦場に現れれば戦意喪失してしまうだろう。


「で、アニマはどこだ?」

「ほれ、あそこじゃよ」


 と、セピアに言われてようやく気付いた。


「……あそこかよ」


 見ると、黒い龍の頭部に黒いローブの少女が乗っているのが見える。身なりと背丈から、おそらくこの前日記で出会った頃のアニマと考えていいだろう。


「……アニマ!」


 俺はとりあえず叫んでみた。しかし、まったくと言っていいほど、俺の呼声が聞こえないようである。


「無駄じゃろう。さすがにここからでは届かぬ」

「そ、そうだよな……」

「ちょっと! 君達、何しているの!?」


 と、背後から聞こえて来た声に俺は思わず振り返る。見ると、そこには、大きな荷物を背中に背負った小さな女の子が立っていた。

 見た目、どこかで見たこと在る……というか、この前、『絶望の首輪』をアニマに嵌めたあのメンテにそっくりだった。

 ただ、その瞳は純粋そうに輝いていたし、髪の毛も綺麗に切りそろえられている。俺の前に表れた不気味な姿とは遠くかけ離れた姿だった。


「え……えっと、君は?」

「僕はメンテ・デーメーテール。アニマ姉様のお供でここにいるんだ。君達も早くここから逃げて。危ないよ?」

「アニマ姉様?」


 メンテと名乗った少女……どうやら、この前のメンテと同一人物と考えていいようだ。コイツ……昔からアニマと知り合いだったのか?


「えっと……実は俺、アニマの知り合いなんだよ」

「え? そうなの? もしかして、魔法使いの人?」

「あ……え、えっと……まぁ、そんな感じだ。コイツは連れのセピアだ。えっと、アニマと話したいんだけど……」


 俺がそういうとメンテは腕組みをしてわざとらしく唸った。


「それは……無理だよ」

「え……無理?」

「アニマ姉さまはこの戦場を殲滅する依頼を受けたんだ。だから、黒炎龍を使って、敵方を今焼き払っているのです」

「え……依頼……」

「うん。ねぇ、見てよ。アニマ姉様……すごいなぁ」


 羨望の眼差しで黒い龍を見るメンテ。どうにもその光景を見ると、この前、コイツがアニマにしたことが信じられない気分だった。


「えっと……君も魔女なんだろ?」

「え? あはは……まぁ、一応ね。でも、アニマ姉様に比べたら……僕は、魔宝具を作って、アニマ姉様のお役に立てればそれでいいかな、って……」


 少し恥ずかしそうにそういうメンテ。この情景を見ていると、一体、アニマとメンテの間に何があったのか、余計に気になってしまう。


「……あ。こんな話している場合じゃないや。さぁ、巻き添えを喰らいたくなかったら、早く非難してよ。僕はアニマ姉様の近くに行くから。それじゃあね」


 そういってメンテは黒炎竜の方に走って行ってしまった。


「……依頼、ねぇ」


 俺はメンテの後ろ姿を見ながら思わずそう呟いてしまった。


「戦争中は、多くの国家、領主が魔法使い、魔女を召し抱えておった。それは、そういった人種の人間が強大な戦力になるからじゃ。千人の兵士ではなく、たった一人の魔女や魔法使いによって戦争が終結した戦争も多いと聞く……あの店主も、昔は大変だったんじゃのぉ」


 他人ごとのようにそういうセピア。言われてみれば、俺は、アニマの昔のことを何一つ知らないのだった。

 しかし、それはアニマが話さないからだ。元々は、あまり興味もなかった。しかし、こうして日記を手渡してきたということは、俺に過去のことを知ってほしいということだったのだろうか……


「む。ご主人。そろそろこの日記、終わりのようじゃぞ?」


 そんなセピアの声が聞こえて来た途端、俺の意識は強制的にフッとまたしても途切れたのだった。

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