絶望の首輪 6
「アニマぁ!」
俺は店に着くなりアニマの名前を大声で呼んだ。店の中でぼんやりとしていたアニマは目を丸くして俺を見る。
「ど、どうしたの? タイラー……」
驚くアニマをよそに、俺はそのままアニマに近寄っていく。
「アニマ……お前……死にたいのか?」
俺が訊ねるとアニマはキョトンとしていた。そして、フッと小さく笑ってみせる。
「タイラー……言ったでしょ。別に死にたいってわけじゃないわ。ただ、別に生きていなくてもいいかなって思っているだけよ」
「……ふ、ふざけんなよ!」
アニマがそう言ってから、俺は自分でも驚く程に大きな声でそう叫んだ。アニマは目を丸くして俺を見ている。
「え……ど、どうしたの? タイラー」
「あ……え、えっと……その、なんだ。確かに、お前は性格悪くて、胡散臭くて、同しようもないやつだと思うけどよ……だけど、お前がいなくなったら、俺……どうしたらいいんだ? 明日から俺はどこで油を売ればいいんだよ? 俺は……どこに行ったらいいんだ……」
と、不思議なことに自然と涙が出ていた。アニマのことなんてこれっぽっちも大事に思っちゃいない。しかし、ふと、明日からアニマに会えないと思った途端、なぜか涙が勝手に溢れてきたのである。
俺のその様子を見て、アニマは驚いていた。そして、やれやれという感じでため息をつくと、そっと、指先で俺の涙を拭った。
「そうね……そんな風に言ってくれる人がいるのならば、もう少し、長生きしてみようかしら」
そう言った途端、カキンと音がして、アニマの首にはまっていた首輪が外れた。
「そ、そんな……嘘……」
と、背後から声が聞こえて来た。振り返ると、そこにはメンテが信じれらないという顔で俺とアニマを見ていた。
「アニマ先輩……今、生きたいって思ったんですか? こんな……僕達に酷いことをしてきた、こんな世界のために?」
メンテは必死の形相でアニマに問いかける。アニマは外れた首輪を手に取ると、少しずつ近づいて、メンテに手渡した。
「……いえ。この世界のためじゃないわ。私の店に来る、たった一人のどうしようもない男のためだけに、もう少しだけ生きてみようと思ったのよ」
アニマの言葉にメンテはただ呆然としていた。そして、キッと、アニマを睨みつけると、首輪を奪い取り、恨めしそうな視線を向ける。
「……僕は絶対に納得しないよ……こんな世界……僕が魔宝具でめちゃくちゃにしてやるんだから……」
そういってメンテは店を出て行ってしまった。
アニマは、その悲しげな後ろ姿をただ見守っているだけである。
「……追わなくて、いいのか?」
「……ええ。私に、あの子を追う資格はないわ……」
アニマはそう言って店の奥に入っていった。暫く俺が呆然としていると、アニマが一冊の本を持ってきた。
「……タイラー。アナタには、知る権利があると思うの」
そういってアニマが手渡してきたのは、タイトルの書かれていない、古びた本。
かつて、俺が勝手に読んでしまったアニマの日記と同じ装丁の本だった。