絶望の首輪 4
「……はぁ」
家に向かう帰路の途中、俺は大きくため息をついてしまった。
アニマのヤツ……どうしてあんな態度でいられるんだ? 死ぬのが怖くないわけないじゃないか。
それなのにまるで平気という風だ。さすがの俺も理解できなかった。
俺が死ぬわけじゃないのになぜか俺の方がいらついていた……というよりも恐怖しているようだった。
まるでアニマが死んでしまうことが怖い……
「……まさか、な」
「何が、まさか、なの?」
俺は思わず心臓がそのまま口から飛び出てしまうかと思った。
「……あ」
俺は顔を上げて目を疑った。
「どうも、さっきも会ったけどね」
そこにいたのは、先ほど、アニマに「絶望の首輪」を嵌めた本人であるメンテであった。
「お、お前……なんでここに……」
「ヒヒヒ……まぁ、見ればわかると思うけど、僕も魔女なんだ。アニマ先輩と同じ、ね」
ねっとりとした調子で俺にそういうメンテ。魔女……言われてみれば、その胡散臭さはアニマに負けず劣らずのものを感じることができた。
「……俺に何か用か?」
「そりゃあ、君が困っているみたいだったからね」
「困って……俺が? 困ってないさ。ちなみに、アンタから魔宝具なんて買わないぜ。さっさと消えてくれ」
俺がそう言うのはわかっていたようで、メンテはニンマリと不気味な笑顔を浮かべた。
「違うよ。僕は魔宝具を買ってもらおうと思ったわけじゃないんだ。ただ……君に情報を教えてあげようと思ったんだよ」
「……情報?」
「うん。君、知らないでしょ? アニマ先輩が何者なのか……ね?」
俺が聞きたいと言うに決まっていると考えているのか、メンテは嬉しそうにそう言った。俺はじっと目の前の魔女を睨んでから、家の扉を開けた。
「……別に知りたくないね。アイツは俺がよく行く中古魔宝具屋の店主。それだけだ」
俺の返答が不満だったのか、メンテは少しイラついた様子で俺を見る。
「何も知らないくせに……ねぇ、ホントはわかっているでしょ? あの人は君が思っているような魔女じゃない。想像を絶する存在なんだ。こんな辺鄙な所で中古の魔宝具を販売するような人じゃないんだ……」
と、少しメンテの様子がおかしかった。イラツイたように先程からバンバンと地面を踏み鳴らしている。
「それなのに……どうしてアニマ先輩は僕を裏切ったんだ……僕達はもっと高度な魔女になって、僕達を利用しただけの存在を見返してやるって誓ったのに……」
メンテは本気でイラついているようだった。俺にはそれがなぜイラついているのかわからない。
ただ、考えられることはメンテとアニマの間にはなにか因縁があったということだった。
「……まぁ、いいや。どうせ、アニマ先輩は死ぬんだ。もうアニマ先輩は僕の知っているアニマ先輩じゃない……だから、僕一人でも、この国を、世界を……」
「……な、なぁ……アンタ、何言っているんだ?」
俺が思わずそう訊ねると、血走った目をぎょろぎょろさせて、メンテは俺を見た。
「……君のような木っ端な存在は知らなくていいことさ。じゃあね」
そういってメンテは俺を侮蔑したような視線を向けたまま、俺の前から去って行ってしまったのだった。