絶望の首輪 3
「えっと……アニマよぉ。大丈夫なのか?」
「大丈夫って……何が?」
アニマは首輪を付けたまま何事もなかったかのようにしている。さすがに俺は心配になって、アニマに訊ねてみた。
「だから……首輪だよ。それ……死ぬんじゃないのか?」
俺がそう聞くと、アニマはしばらくキョトンとして俺を見ていた。
「ええ。死ぬわね」
そして、さらっと俺にそう言った。
「へぇ、死ぬんだ……はぁ? 死ぬ?」
驚くのは俺の方であった。アニマは面倒くさそうに俺の事を見る。
「そうよ。何よ、そんなに驚いて……」
「だ、だって……死ぬんだぞ? 死んでいいのか?」
「ええ。別にいいわ。もう五百年くらい生きたのよ? いつ死んでも後悔なんてないわよね」
アニマは本気でそう言っているらしく、冗談を言っている様子はまったくなかった。俺はなんと言ったらいいのかわからなかった。
確かにアニマは500年生きたとか、そんなことをいつも言っている……だからって、死んでいいって言うのは俺からしたら理解できなかったのである。
「い……いいのかよ? 死ぬんだぞ?」
「だから、いいって言っているじゃない。ほら、タイラー。お店の邪魔になるからさっさと帰りなさい」
そう言われて帰るわけにもいかなかった。俺はアニマにそれでも食いついた。
「その……さっきのヤツに頼んだらいいんじゃないか? この魔宝具を外してくれ、って」
「はぁ? 無理よ。たぶんメンテにもこの魔宝具は外せないわ。だから、私は死ぬしかないってわけね」
「そ、そんな……ふ、ふざけんな! お前が死んだら俺はどうやって生活すればいいんだよ!」
すると、アニマはフッと優しげに微笑んだ。まるで聞き分けのない子供を見る大人のような顔つきだった。
「タイラー……アナタの気持ちはわかるわ。私だって、別に死にたくないってわけじゃないのよ?」
「え……だ、だったら……」
「でも、私はずっと前から、私自身のことを生きていていい存在ではないと思っていた……だから、私は死を受け入れる。それだけの話なのよ」
アニマは遠い昔を思い出すかのように目を細めた。俺には何がなんだかわからなかった。ただわかったのは、アニマはなぜか死にたがっているということだった。
「……ああ、そうかい! だったら勝手にしやがれ!」
俺はそういって思わずそのまま店を飛び出してしまったのだった。