悪食な街 3
「……ヒトクイソウ?」
「ええ……そうよ」
先程から気だるそうな様子で喋るアニマを俺は背負って、道を歩いていた。
「……魔宝具、だったのか。アレ」
「ええ……立派な魔宝具よ。街一個を滅ぼすことができる代償魔宝具……最も、制御が効かないのがたまに傷だけど」
「……なんでそんなの作ったんだよ」
「知らないわよ。代償魔宝具を作る奴なんてのは、大抵が後先考えずに作るのよ。そして、金さえ手に入ればいいと思うから、金を出す買い手に売りつけちゃうの……だから、あんなことになっちゃうんじゃない」
そういって俺とアニマは後ろを振り返った。見ると、そこは街ではなかった。
瓦礫と焼け焦げた残骸が残る惨状だった。ところどころに墓らしきものが見える。
「……ヒトクイソウは種子を飛ばして、人間の死体に寄生するの。そして、まるで生きているかのように動かす……恐ろしい魔宝具ね」
「なるほど……おまけに魔女をダメにする花粉まで発生させるのか」
俺がそういうとアニマは少し気まずそうに顔をそむけた。
「……ヒトクイソウは基本的に何でも食べちゃうんだけど、魔力が強いものを好むそうよ。だから、魔力を持っているものを昏倒させる花粉を発生させる……ホント、とんでもない魔宝具ね」
「はぁ……ってことは、あの魔宝具のせいであの街は滅びたってわけか。なんでそんなものを?」
「……タイラーは知らなくていいことよ」
まるで子供扱いするように、アニマはそこをはぐらかした。本当は突っ込んで聞こうと思ったが、疲れていたのでそれ以上はやめておいた。
「……あ。そういえば、魔宝石。何勝手に持ちだしているかしら?」
「はぁ? お前なぁ……俺がお前の魔宝石を拝借してなかったら、今頃お前はあの化け物祝物に食われてたんだぞ?」
「それとこれとは話が別よ。お金、きちんと払っていただきますからね」
背負われていることをまるで気にしていないらしく、アニマは威圧的にそう言った。俺は何も言い返すことができず、ただ黙ったままだった。
「それにしても……まさかあんな場所にいたとはね……」
俺はアニマを背負ったまま振り返った。振り返った先にあったのは、寂れた街だ。人の気配はなく、建物も壊れかけている。
「ヒトクイソウの花粉は幻覚も見せるそうだから……ホント、助かったのは運が良かったわ。きっと、何人ももうあの街で犠牲になったのでしょうね……」
辛そうな声でアニマはそう言った。俺はそれである事を思い出した。
「なぁ。そろそろお前の前に現れるんだろう? こんなとんでもない魔宝具を売りまくった元凶が」
俺がそういうとアニマは大きくため息をついた。そして、空を見上げる。
「そうね……確証はないわ。でも……きっと、来るわ」
アニマは何か考えこんでいるようだった。俺は魔法を使ったからか、とにかく疲れていたし、早く帰りたかったので、その後は何も言わず、アニマを背負ったまま帰路を急いだのだった。