悪食な街 2
「……餌って、どういうことだよ?」
牢屋に入れられ、鎖に繋がれたままで俺は町長と向き合っていた。
「そのままの意味です。我等の魔宝具は強力な魔力を欲している……お前のようなカスは正直どうでもいいのだが、あの魔女は相当な魔力を持っているようですからねぇ……」
「な……じゃあ、アニマをその……魔宝具に食わせるっていうのか!?」
「ええ。我等の魔宝具が魔力を蓄えれば蓄えるほど、この街は益々反映するのです! 悪く思わないでくださいね」
そういって町長はそのまま行ってしまった。
「……クソッ。一体どうなってんだ」
一体これはどうなっているのか……そもそも、人を食べるという魔宝具って……その魔宝具が代償魔宝具なのか?
アニマがいれば聞けるのだろうが……アニマは別の場所に連れて行かれてしまった。果たして無事なのだろうか。
「はぁ……こんなことなら、俺も何かしら武器になるようなものを持ってくればよかった……」
せめて護身用の剣の一本くらい、使えないと分かっていても持って来るべきだった。しかし、俺は今現在何も武器になるようなものは持っていない。
そう絶望して、懐の中を漁って見る。
「……ん?」
と、俺はそこに何かがあるのを感じた。慌てて取り出してみる。
「あ……そうだった」
今まで忘れていた。俺はアニマの店から一つだけ魔宝具を頂戴してきたことを。
これがあればどうにかなる……とは思えないが、もしかしたらどうにかなる……かもしれない。
「アニマ……たまには、いいところ見せてやるぜ」
それから、半日くらい経った頃だろうか。町長と兵士がやってきて、俺を連行した。どこまで連れて行かれるのかと思いきや、そのまま町長の家へと向かった。
そして、そのまま地下室へと繋がる扉を開き、階段を降りていく。
「……この先に何があるんだ?」
「黙って歩きなさい。我等の魔宝具がお腹をすかせて待っているのです」
町長はそういって歩き続けた。そして、そのまま暫く階段を降りた後で、広い空間に出た。
「……で、どこに魔宝具があるんだ?」
すると、兵士が松明を高く掲げた。灯りに照らされた途端、目の前の「魔宝具」が動き出した。
「な……なんじゃこりゃ……」
「ええ。これが、我等の魔宝具です」
見ると、目の前に表れたのは、大きな植物だった。
植物……ちょっと語弊があるようにも感じる。まるで巨大な化け物のように蠢くそれは、ちょっと植物には思えなかった。
巨大な花の花びらには、まるで牙のように何個も牙がついており、その真ん中が口のように大きく開かれている。
「さて……魔女をここに連れて来い!」
町長が言うと、フラフラ状態のアニマが連れて来られた。俺と違い、手錠を架けられている。
「お、おい! アニマ!」
「無駄です。魔女は我等の魔宝具の花粉を吸い過ぎました。さぁ。さっさとその魔女を献上しなさい!」
「あ……ちょ、ちょっと待てよ!」
俺は慌ててそこで割って入った。村長や兵士たちが怪訝そうな顔をする。
「なんですか。我等の魔宝具の食事の前ですよ」
「あ……えっと、そのこう言っちゃなんだけど……先に俺の方を食わせたほうがいいんじゃない?」
俺がそういうと町長は無表情で俺のことを見る。額に汗が浮かぶのがわかった。
「……なぜです?」
「だ、だって! アイツは相当な魔女だぞ? いきなりそんなメインディッシュを食わせんのかよ? 普通、こういう時は前菜が先だろ?」
自分のことを前菜、というのは抵抗があったが、背に腹は変えられない。町長や兵士は無表情で俺を見ていたが、しばらくすると、ひそひそと互いに話を始めた。
「……よろしい。お前のようなクズ、我等の魔宝具の餌になれることを誇りに思うが良い」
俺はそういって巨大な花の前に立たされた。花は、牙の生えた巨大な口(?)を開けて、俺を今にも捕食しようと、つるを伸ばしていた。
「なぁ……お前たちに一つ言ってなかったことがあったぜ」
と、俺は兵士と町長に振り返ってニヤリと笑った。キョトンとする町長と兵士をよそに俺は、強く魔宝石を握った。
「俺も……魔法使いだってことをよぉ!」
魔宝石を強く握ると、魔力があふれるのがわかった。瞬く間に俺の左手からは、アニマが普段操るような黒炎が噴出し、巨大な植物を焼いたのだった。