思い出の城 3
「このお城は、アナタが作った魔宝具なのかしら?」
アニマが訊ねると、女は目を嬉しそうに目を細めてアニマ、そして、俺を見る。その目つきはなんとも言えないほど気持ちの悪いものだった。
「……さぁ? それはどうかしら? こんなにも巨大なお城が魔宝具っていうのも、ちょっと信じられない話よね?」
女ははぐらかすようにそう言う。
俺はこっそりとアニマの近くに戻った。そして、小さな声でアニマに訊ねる。
「……なぁ、この城がやっぱり代償魔宝具なのか?」
俺がそう小声で聞くと、アニマはチラリと横目で俺を見る。
「……どうかしら? まだはっきりとしたことは言えないわね」
「え……じゃあ、どうするんだ?」
「まぁ、見てなさい」
俺はアニマがそういうので黙っていることにした。アニマは一歩前に出て、女と向き合う。
「で、私達をどうするつもり?」
「どうする……そうねぇ。このお城で一緒に暮らしてもらおうかしら」
「生憎だけど、私、お店をやっているの。さすがにここで暮らすことは出来ないわ」
アニマがそう反論すると、女はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫よ……このお城に入った人はこのお城と一つになるの。そして、永遠にこのお城の中で生き続けるのよ」
「じょ……冗談じゃねぇ! こんな所で永遠って……アニマぁ……」
「……タイラー。黙ってなさい」
アニマが威圧感のある声でそう言ったので、俺は今度こそ黙っていることにした。
「ということは、やっぱりこの城は……代償魔宝具なのよね?」
アニマがそう言うと女は嬉しそうに微笑んだ。
「そんなことどうでもいいじゃない……ここはあの人のお城なの……あの人のお城がこうして今もずっとここにある……それだけが大事なことなのよ」
「あの人? ソイツがこの代償魔宝具の持ち主ってわけか?」
すると、女は少し怪訝そうか顔をして俺を見た。なんだかあまり聞かれたくなかったことを聞かれてしまった……そんな感じの顔だ。
「……違うわ。私よ。私がこのお城の持ち主に決まっているじゃない」
「あら。でも、アナタさっき、その話に関してはぐらかしていたじゃない」
「そ、それは……」
女は黙ってしまった。しかし、アニマは何かを確信したようだった。
「そう……じゃあ、これはどうかしら?」
そういうとアニマはいきなり手のひらから黒炎を放った。黒い炎はあっという間に古びた城の壁に引火し、燃え始める。
「お……おい! アニマ、何してんだ!?」
さすがの俺も理解不能だった。城から出られなくなったことで、アニマはおかしくなってしまったというのか。
「は……何をしているの? そ、そんなことをしたら、アナタまで……」
「いいえ。私はこの炎では死なないわ。燃えてなく成るのはアナタとこの城……そして、残念だけどかわいそうなタイラーも」
そういってウィンクするアニマ。なんとなくアニマが何か策があって炎を出していることが俺にはわかったので、それ以上は何も言わなかった。
「ふ……ふざけないで! やめなさい! 今すぐ!」
「やめないわ。私は代償魔宝具にしかるべき処置を取るために此処に来たのよ? だから、こんな城は焼き払ってしまうに限るわ」
そういってアニマはどんどんと黒炎を放出していく。段々と女の顔色が悪くなっていくのがわかった。
「や……やめて!」
「……そうねぇ。じゃあ、そのボロボロの玉座も燃やしてしまおうかしら」
そういってアニマは指先に炎を灯し、そのまま玉座に向けた。すると、女は慌てて玉座にしがみついた。
「わ、わかったわ! もう……もうやめて……」
アニマはそれを見て、何かを悟ったようで、パチンと指を鳴らす。其の瞬間、今まで周囲を焼いていた炎が一瞬にして消え去った。
「代償魔宝具は、その玉座ね」
「……へ? 城じゃないのか?」
俺は恐る恐るアニマのそばによって訊ねてみた。
「『王者の玉座』。その椅子に座れば一国一城の主になることができる……代わりに、座った人間の魂を少しずつ吸い取っていくという、なんともたちの悪い魔宝具よ」
アニマは悲しそうな顔でそう言った。そして、古びた玉座の間を見渡す。
「この城は、たった一つのその古びた玉座のためのもの……そうでしょ?」
アニマがそう訊ねると、女は小さく頷いた。
「ごめんなさい……でも、もう私にはこの人しかいないの」
そういって女は目を細めて、まるで恋人を見るかのように玉座を見た。
「そう。わかったわ。同じ魔女のよしみで見逃してあげる。その代わり、もうお城に人を閉じ込めて、人間をその椅子の魔力代わりにしちゃダメよ」
「……はい」
そう言うとアニマは背中を向けて歩き出した。俺もその後に続く。一度玉座の間を後にするとき、女は椅子に座っていた。そして、嬉しそうに椅子に身体を預けていた。