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英雄の剣 3

村長はニンマリと意地悪そうに笑う。アニマは険しい顔で村長と対峙していた。


「……そうか。コイツ……コイツが『英雄の剣』じゃったか!」

「……は?」


 セピアの言葉に俺は思わず聞き返してしまった。


「おそらく……あの剣はアイツの元々の持ち主……つまり、コイツの方が元々剣だったのじゃ」


 セピアがそう言うと、村長は邪悪な笑みを浮かべて俺達を見る。


「その通り。俺は魔宝具『英雄の剣』だ。俺は『英雄の剣』だからな。俺を手にしたヤツは、程度の差こそあれ、誰でも英雄にしてやったぜ。まぁ、その代償として、俺の身体と所有者の身体を入れ替えさせてもらったがな。なにせ剣なんてのは、ただ振り回されるだけでつまらねぇ。それに引き換え、人間の身体を手に入れれば英雄にだってなれる!」


 と、なぜか「英雄の剣」は俺のことをギロリと見た。そして、嬉しそうに舌なめずりする。


「そろそろコイツの身体も老いぼれてきたからな……新しい身体が欲しかったんだ……ぜぇ!」


 そういって英雄の剣は、アニマの持っていた剣を掴むと、そのまま俺に向かってそれを放り投げてきた。

 俺は反射的にそれを掴んでしまった。


「あ」


 その瞬間、俺の精神に何かが流れこんできた。邪悪な……禍々しい感じだった。戦いに飢え、戦争をしたいという気持ち……


「タイラー……タイラー!」


 どこかで誰かが、俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。うるさい……俺は戦争を……英雄になるんだ……邪魔をするな……

 ……ん? いや、待てよ。戦争だって?

 戦争なんてしたら、楽に人生を送れないじゃないか。そもそも、俺はアニマの店で魔宝具を売って気楽に過ごすんだ。英雄になんてなりたくないない。それこそ面倒だ。


 そうだ。英雄になんてならなくていい。俺は今のままで十分なんだ。


『ぐ、ぐがぁぁぁ!?』


 と、なぜか俺の頭の中で他の誰かの声が聞こえてきた。


『な、何だお前……英雄になりたくないのか?』

「え……まぁ、別になりたく……ない、かな?」

『ふ、ふざけるな! く、糞……このままでは……一旦剣の中に戻らねば……』


 と、其の瞬間、俺は完全に意識を取り戻した。

 見ると、目の前に「英雄の剣」が転がっている。


「あ、主!」


 と、セピアが隣で心配そうに俺のことを見ていた。俺はキョトンとしてセピアを見る。


「え……セピア?」

「ああ……よかったのぉ……本当によかった……」

「あ、ああ……えっと、どうなったんだ?」

「この剣がアナタの身体を乗っ取ろうとしていたのよ」


 そういってアニマは剣に向かって手のひらを向ける。その瞬間、剣は一瞬にして黒い炎に包まれた。


「え……あ、ああ。そうか……」

「それにしても……どうしてご主人は乗っ取られなかったのじゃ? 剣を手にとったのに……」


 セピアが不思議そうに俺のことを見ている。すると、アニマが大きくため息とついた。


「簡単よ……英雄……タイラーからもっとも遠い言葉だわ。タイラーが英雄になりたいわけ、ないじゃない」


 アニマが俺の気持ちをズバリ言い当ててしまったので、俺はなんとも言えなかった。


「まぁ、『英雄の剣』も、まさか英雄になりたいと思わない人間がいるとは思わなかったんでしょうね……もっとも、それで助かったんだけれど」


 と、アニマはそういいながら、先程から倒れている村長の肩を叩いた。


「村長さん。起きて」

「……うぅ……ここは?」


 村長は目を覚ました。


「アナタの家……いえ。『英雄の剣』がアナタの身体を利用して得た家、と言った方がよいのかしら?」


 アニマがそう言うと村長は目を丸くして自分の身体を見た。


「……私は……人間に戻れたのか?」

「ええ。ちなみに、剣になったのは何年前?」


 すると、村長は辛そうな顔でアニマから視線を逸らした。


「……40年前だ」

「え……あ、アンタ、40年って……」


 俺がその先を言おうとするのを、アニマが遮った。


「アナタ……英雄になりたかったのね?」

「……ああ。私は臆病だったから……アイツの言葉に乗ってしまったんだ。そして、剣を手にしてからは、アイツが私、そして、私が剣……私はアイツの剣として、多くの戦争で手柄を立ててきた……でも、剣を使っていたのは、アイツなんだ……」


 そういって村長はチラリと先程から黒い炎に包まれ、既に灰になりかかっている「英雄の剣」を見た。


「……これは、どうするんだ?」

「燃やし尽くすわ。こんなもの、無い方がいいわ」


 アニマはそう言ってから、村長の方に今一度顔を向ける。


「言っておくけど、アナタは剣だった……それでも40年、剣として懸命に働いたわけでしょう? そんなアナタも、私は英雄だと思うわ」


 アニマの言葉を聞いて、村長は少し安心したようだった。そして、アニマが村長の家を出たので、俺とセピアもそれに続いたのだった。

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