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英雄の剣 1

「あ」


 その日、マジック・ジャンクから出てきたのは、またしても鎧姿の兵士の姿だった。俺は直感的にアニマに何かがあったのだと理解した。


「アニマ! また戦争か!?」


 慌ててマジック・ジャンクに入った俺を、冷ややかな目つきでアニマは見る。


「ああ、タイラー。残念だけど、それよりも面倒なことを頼まれちゃったのよ」


 そういってアニマは帽子をかぶり、首に毛皮を巻いている。


「どこか、行くのか?」

「ええ。どうせ、暇なんでしょう?」

「……ああ。そうだ。言い方にはムカつくがお前の言う通り、俺は暇だ」

「そう。だったら、付いてきて。一人で知らない所に行くのは、私苦手なのよね」


 よくわからない理由だと思ったが、付いてきてもいいと言われるのなら、俺も悪い気はしなかった。


「ああ。そうだ。あの子もつれてきて。アナタが引き取った精霊」

「え? セピア? なんで?」

「いいじゃない。大所帯の方が旅も楽しいわよ。さぁ、早く」


 仕方がないので、俺は一旦家に戻ってから、セピアをつれてマジック・ジャンクに戻ることにした。


「主よ……どうして我等もついてこなければいけないのだ?」


 不満そうなセピアをなんとか説得して俺達はマジック・ジャンクへの道を急いでいた。


「さぁ? アニマに聞いてくれ」


 俺がセピアを連れてきてもアニマは詳しい話をしてくれなかった。そして、マジック・ジャンクの地下の扉まで来た所で、アニマはようやく俺達に顔を向けた。


「精霊さん。『代償魔宝具』って知ってるかしら?」


 その言葉を聞いて、セピアの顔色が変わった。

 なぜかものすごく嫌なそうな顔でアニマを見ている。


「なんだ? 代償魔宝具って?」

「人体に深刻な影響を及ぼす魔宝具のことよ。基本的に魔宝具っていうのは、効果によっては人に破滅をもたらすものが多いけれど、それを使っただけでは人を死に追いやるものではない。でも、代償魔宝具はそうではないわ。使っただけで人の精神や体力を大きく奪ってしまう……それが代償魔宝具よ」

「それって……最終的に使いすぎると死ぬのか?」

「死ぬだけなら……いいんじゃがのぉ」


 セピアが苦々しい顔で呟いた。アニマは悩ましげにため息をつく。


「死にはしないわ。代償魔宝具の最終的な目的は、その人の身体よ。人間と魔宝具の境界線が曖昧になり、最終的には、人と魔宝具の区別がつかなくなってしまう……そして、融合した存在のことを魔物と呼ぶのよ」

「魔物……? お、おいおい。話がわけわかんねぇぞ?」

「そうね……たぶん、タイラーが想像しているのとは違うわよ。代償魔宝具を使っている人のこと、もしくは、代償魔宝具が影響を及ぼしている物に対してそんな呼び方をするってだけの話だから。まぁ、簡単に言えば、代償魔宝具っていうのは『何かを得る事が出来る代わりに、それ以上の何かを失う』っていう、割にあわない魔宝具なのよ」


 アニマはそう言って俺に背を向けた。

 しかし……驚きだった。

 今まで魔宝具は扱ってきたが、そんなに危ない種類のものが存在するなど、思いもしなかったからである。


「……でもよぉ。アニマはそんな危険なもの、扱わないんだろ? だったら、関係ないじゃないか」

「ええ。でも、それを使って商売をするおバカさんが、どうやらいるみたいなのよね」


 アニマは大きくため息をついて、それからドアノブに手をかけた。


「そのおバカさんがばら撒いた代償魔宝具に対してしかるべき処置をするために、これから出かけるのよ」

「……で、これから処置をするっていう代償魔宝具はどんなものなんだ?」


 すると、アニマはこちらに顔を向けて意味ありげに微笑んだ。


「……『英雄の剣』。手にしたものを誰でも英雄にしてくれる素晴らしい代償魔宝具よ」


 そう言ってアニマは扉を開けた。

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