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魔女の日記 第一巻(後編)

「……で、未来の私の日記を勝手に見て、アナタはまんまと私の記憶の中に入り込んでしまったわけですか」


 俺は力なく頷いた。幼い容姿のアニマは大きくため息をついた。


「最低ですね。他人の日記を勝手に見るなんて」

「……すまん。アニマ」

「その謝罪は、未来の私にしてください。けど……どうやら日記は本物の魔宝具のようですね」


 アニマはそう言って、日記を珍しそうに見ている。


「……ああ。さっきお前、胡散臭い行商人とか言っていたが、お前も将来胡散臭い魔宝具売りになるんだぞ?」


 俺が少し意地悪にそう言うと、アニマはキョトンとした顔でこちらを見た。そして、なぜか力なく笑った。


「魔宝具売りですか……なれるものならなってみたいですね」

「は? なれないのかよ?」

「……なれるわけ、ないでしょう。私はもっと魔法を磨いて、この領地を守る魔女になれなくちゃいけないんです」


 アニマは悲しそうにそう言った。俺はただそんな悲しそうな様子のアニマをジッと見ていた。


「なぁ。未来のお前も言っていたんだが、領地毎に魔女ってもんはいるのか?」

「……ええ。アナタの未来ではいないんですか?」

「あ、いや。俺の知らないだけかもしれん。っていうか、魔女っていうのは、俺の時代では少し変わったヤツの総称なんだよな……だから、魔法がマジで使えるヤツもあんまりいないって印象なんだが……」


 俺がそういうとアニマはなぜか少し嬉しそうに笑った。


「そうですか……いい時代ですね。後何年立てばそんな時代になるんでしょう」


 俺の云うことを冗談だと思っているのか、あまり嬉しそうにしないアニマ。俺の知っている妖艶で狡猾そうな魔女とは似ても似つかない、繊細でガラスのような印象を受ける。


「あ……えっと、アニマ。何か悩んでいること、あるんじゃないか?」

「え? あはは……いいんですよ。アナタに言っても仕方のないことです。私はいつもこんな感じですから……」

「そうなのか? 俺の知っているアニマは……いっちゃ悪いが、食えないやつだぜ? 俺に変な魔宝具ばっかり押し付けてくるし……まぁ、でも、悪いやつではないと思うけどよ」


 俺がそう勝手なことを言っていると、アニマはなぜか嬉しそうだった。なんとなくそんな視線で見られているのが恥ずかしくなって、俺は少し戸惑った。


「あ……まぁ、よくわからんが、どうせ、お前もあんな感じになっちゃうんだから、あんまり悩まなくてもいいんじゃないか?」

「……そうですね。アナタのこと知らないのに、なんだか話していると、すごく……安心します」

「そうか? まぁ、いつも話しているんだけどな」


 満足そうに俺を見るアニマ。目の前にいるのがアニマだと思うとなんだか、そんな態度をとられると安心できない。


「……で、俺はどうやったら帰れるんだ?」

「え……帰っちゃうんですか?」

「当たり前だ。あ……いや、待てよ。別に帰らなくてもいいんじゃいか?」


 俺は目の前のアニマを見る。まだ小さいし、俺に対して辛く当たらないアニマ……おまけに見た感じだとちゃんと魔女をやっているみたいである。

 だったら、わざわざ元の未来に戻らなくても、ここにいたほうが良いような……


「あ……いやいや。帰らないとな」


 といっても、さすがにここにずっといるのはどうかと思う。周りの状況がわからないし、俺は元いた時代を嫌いだったわけではない。


「……そうですか。それがいいですよ。アナタの時代は、この時代より、数倍生きやすい時代みたいですから」

「え? そうなのか?」

「はい……それに、未来の私が可愛そうです。私ってこう見えて……結構、寂しがり屋ですから」


 そういってアニマはなぜか日記を俺に手渡してきた。


「え? これ……どうするの?」

「もう一度開いてみてください。きっと、解決しますよ」


 そう言われて俺は日記をもう一度開いた。やはり何も書いていない。


「なぁ? やっぱり何も書いてないぞ?」

「ええ。そりゃあそうよ。そういう魔宝具だから」


 俺は思わずその場で立ち尽くしてしまった。目の前には長い黒髪に、妖艶な目つきで俺のことを見る、見覚えのある女性が立っていたからである。


「あ……アニマ」

「まったく……予想通りだったけど、こうも勝手に人の日記を見るとはね……最低よ、タイラー」


 ちょっと前に言われたのと大体同じ内容のことを言われた。俺は呆然としながら、ただ日記をアニマに手渡した。


「でも、わかったでしょ? 昔の私はあんな感じだったのよ」

「あ、ああ……それはわかったが……」

「……昔のあんな私がいたから、私は今でも戦争が起きる度に都合よく使われるのよ。まったく……まぁ、何も知らない可愛い女の子だったから仕方ないけれど。あんなことに付きあわせてしまった以上、アナタには知ってもらいたかったわけ」


 少し含みのある言い方をしながらアニマはそう言った。そして、チラリと俺の方を見る。


「ねぇ、昔の私、可愛かったでしょ?」

「え? あ、ああ。それはそうなんだが……」

「何? 何か言いたいこと、あるの?」


 俺は少しためらったが、やっぱり言うことにした。


「いや……まぁ、何でお前はこんなになっちゃったんだろうな、って」


 そう言うとアニマはなぜかニヤリと微笑んだ。そして、そのまま店の奥に入っていく。


「それは、また今度ね。日記には続きがあるから」

「え? 続き?」


 俺はもうごめんだ、と思ったが、少し見てみたい気にもなってしまったのだった。

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