戦場の魔女(前編)
「ん? あれ……兵士?」
俺が「マジック・ジャンク」に向かっていると、なぜか、店の中から鎧を着た兵士が出てくるのが見えた。
少し心配になった俺は、急ぎ足で「マジック・ジャンク」に向かう。
「アニマ? どうしたんだ?」
俺が店の中に入ると、アニマは帽子をかぶり、首には毛皮を巻きつけていた。
「ああ。タイラー。ごめんなさい。これから出かけるのよ」
「はぁ……どこへ?」
「この領地と南の領地の境界線」
「え……ちょっと待て。もしかしてそこって……今小競り合いが起きている場所じゃないか?」
俺がそう聞くと、アニマはそれがどうしたのだ、とでも言った顔で俺を見た。
「あ……そんなところに行ってどうするんだよ?」
「もちろん、小競り合いをやめさせるのよ。そんなこと、下らないから」
「はぁ? やめさせるって……やめさせられるのか?」
「当たり前じゃない。私は『黒炎の妖女』よ。人間の戦意を喪失させるのなんて簡単よ」
「っていってもなぁ……噂じゃ結構な規模になっているって聞くぞ。南の領主は代替わりしてから随分とやんちゃしているって聞くし……」
「ええ。きっと知らないんでしょ。この領地に魔女がいるってことを」
そういってアニマはそのまま店の奥に入り、店の地下へと繋がる扉を開け、そのまま階段を降りていく。階段を降りた先の扉に手をかけた。
「ちょ、ちょっと待て! この先って……戦場か?」
「ええ。そうよ」
「あ、危ないだろ! 鎧も着ないで行くっていうのか?」
「そうよ。タイラー……アナタ、嫌ならついてこないでいいのよ?」
「あ……ま、まぁそうなんだが……」
しかし、戦争を止めるとは、一体どういうことなのか?
俺は少し気になってしまった。
「まぁ、私の側を離れなければ大丈夫よ? どうする? 来る?」
「え……ま、まぁ……」
アニマは適当なやつだが、嘘はつかない。俺はアニマを信用して付いて行くことにした。アニマはドアノブに手をかけると、何かをブツブツと呟いた。
そして、一気に扉を開く。
「う、うわ……」
俺は絶句してしまった。
矢が飛び、人が人を斬りつけている……扉を開いた先は、本当に戦場だったのだ。