メンドクサイダケ(後編)
「酷いわ……勝手にいなくなって……置いてかないで、って言ったのに……」
泣きじゃくりながら、アニマはそう言った。俺の家の中は異様な雰囲気に包まれていた。
「あー……悪かったよ。アニマ」
「ホントにそう思ってるの? 私の事、ホントはどうでもいいって思ってない?」
目を釣り上げてそういうアニマ。俺は苦笑いしながら首を横にふる。
「思ってるわけ無いだろう? アニマにはいつも感謝しているって」
「……嘘よ。ホントは私のことなんてどうでもいいって思っているんだわ」
頬をふくらませてアニマは子供のように拗ねている。俺は思わずその様子を見て笑ってしまった。
「なっ……なんで笑うの?」
驚いた顔でそういうアニマ。
「あ、いや……すまん。なんだか……面白くて……」
「あ……主……」
と、気まずそうな顔でセピアがそう言った。
見ると、アニマは今にも泣き出しそうな顔で俺のことを睨んでいた。
「あ……ち、違う! 面白いってのはそういう意味じゃなくて……」
「じゃあ、どういう意味なの!? 私の事、馬鹿にしているとしか思えないわ」
「あ……いや、なんというか……か、可愛いな、って」
言うに事欠いて、俺はそんなことを言ってしまった。
アニマはキョトンとした顔で俺を見ている。セピアも目を丸くして俺のことを見ている。
「あ……ありがとう……」
「……へ?」
すると、アニマはアニマとは思えない態度で頬を紅潮させて俯いてしまった。
そんな様子を見ていると、俺もなんだか居心地が悪くなってきた。
「セピア……きのこの効果はいつ切れるんだ?」
「う~む……こういう類のきのこの効果は半日程で切れるはずなんじゃ。そろそろ切れてもおかしくないのぉ」
「そ、そうか……」
安心した途端俺は大きくため息をついた。
ということは、そろそろこの面倒な事態も終わってくれるということである。
アニマはずっと黙ったままである。俺はなんとなくそのままでいてはいけない気がして、外にでることにした。
「あ……ど、どこに行くの?」
「……アニマ。その……そろそろ帰ったほうがいいぞ。俺も、送っていくから」
俺がそう言うとアニマは納得したようで立ち上がった。
そのまま不安そうな顔でこちらを見てくるセピアを尻目に、外に出る。
マジック・ジャンクまで歩いてもすぐに着く距離だ。星空の下、俺とアニマは黙ったままで歩いた。
「……ねぇ、タイラー」
と、背後からアニマの声が聞こえて来た。俺は立ち止まり振り返る。
「ん? なんだ?」
「……さっき言ったこと、ホント?」
「さっき……さっきって?」
「だから……か、可愛いって……」
恥ずかしそうにしながらアニマはそう言った。俺は自分で言ったことを思い出し恥ずかしくなって顔を反らす。
「あー……そ、そうだな……まぁ、嘘ってわけじゃないぞ。お前は、その……どちらかというと、美人な方だしな……」
俺がそういうとアニマは顔を紅くしてこちらを見ている。俺もなんだかこっ恥ずかしくなってきた。
「あ……そ、そうなんだ」
「あ、ああ……ほ、ほら。さっさと帰るぞ」
「……いいわ。ここらへんで。一人で帰るから」
と、其の言葉を聞いて俺は違和感を覚えた。
面倒くさくない。いつもとおりのアニマだ。もしや……
「アニマ、お前……」
と、俺がそういうとアニマは小さく舌を出してこちらを見た。
「まったく……私としたことが、間違ってあんなきのこを食べてしまうなんて……さすがの私でも、魔宝具とは別系統の存在の効力には抗えなかったわ」
「なっ……元に戻ってるのか……じゃなくて! いつから元に戻ってたんだ?」
すると、アニマはニンマリと嬉しそうにこちらを見る。
「さぁ? いつだったかしらね……でも、良かったわ。タイラーは私のことを『可愛い』って思っていることがわかって」
「お、お前なぁ……」
俺が呆れて物も言えない内に、黒衣の魔女は、笑いながら歩いて行ってしまったのだった。