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悲哀の指輪(後編)

「……はぁ」


 家に帰った俺は、思わず大きくため息をついてしまった。


「どうしたのじゃ? 主よ。先程から元気が無いようじゃのぉ」


 事情を知らない古魔宝具之精霊セピアは、呑気に俺にそう訊ねて来た。


「……俺、今日、死ぬらしい」

「は? なんじゃと?」

「……一生懸命探したんだ。アニマと一緒に。でも……もうダメだ」


 思わず机に突っ伏して大声でそう言ってしまった。


「ど、どうしたのじゃ? 我等に話してみよ」

「……指輪を探す幽霊に呪い殺されるんだ……アニマでも対処できないらしい……どうすればいいんだ?」

「……指輪? 幽霊……もしや『悲哀の指輪』か?」


 俺は思わず顔をあげて、セピアを見た。


「し、知っているのか!?」


 思わずセピアに詰め寄る。セピアは目を丸くして俺のことを見ている。


「あ、ああ……その指輪なら、我等の中に紛れ込んでおるぞ」

「我等……そうか!」


 俺は、それを聞くが早いか、そのまま家を飛び出した。

 確かに探していなかった。

 それは、かつてマジック・ジャンクの店の裏にあったゴミの山……つまり、使えなくなった古魔宝具の山である。


「あ、主よ! 我等も探すぞ!」


 セピアも家から飛び出してきた。俺とセピアは急いでそのまま古魔宝具の山に向かう。俺の家の裏にある古魔宝具の相変らず、うず高く積み重なったままとなっていた。


「……セピア。どこらへんにあるとか、わからないのか?」

「……すまぬ。さすがにわからぬ。我等のどこかに紛れ込んでおるということしかわからぬ。とにかく、我等の中をくまなく探してみるしか……」


 俺は言われるが早いか、急いでゴミの山をかき分け出した。セピアもそれに協力して指輪を探し始めた。

 アニマの話では、三日目の朝に、妻の幽霊は協力者を殺しに来るという……朝まで後数時間しかない。それまでに、とにかく、探し出すしか無い。

 それから無我夢中で俺とセピアはゴミの山を捜索した。しかし、指輪という小さな存在は、それでも見つからなかった。


「……ない」


 ガラクタの中に紛れながら、俺は力なく呟いた。


「すまぬ……我等の中のどこかにあるのは間違いないんじゃが……」


 セピアは申し訳無さそうにそう言った。見ると、空の向こうには既に白い光が見えていた。


「……ぐっ」


 と、俺は首の辺りに苦しい感じを覚えた。何かに首を締められているような感覚である。


「あ、主!」


 セピアの声が聞こえると同時に、俺は目を見開いてしまった。

 青いドレスの女がすごい形相で俺の首を締めているのだ……どうやら、妻が俺のことを殺しに来たらしい。


「あ、主よ……」

「セピア……とにかく……探せ……!」


 俺の言葉通りにセピアは涙を浮かべながら、ゴミの山をかき分け始めた。しかし、首を締める力はどんどん強くなる……

 ああ、ダメだ……薄れゆく意識の中で俺は確信した。


「待ちなさい」


 と、そこへはっきりとした、凛とした声が聞こえて来た。俺は思わずそちらの方を見る。


「あ……アニマ」


 そこへ表れたのは黒いローブの魔女、アニマだった。妻の幽霊が首を占める力が少し弱まった。


「アナタがほしいのは、これでしょ?」


 アニマが取り出したのは、紫の宝石のハマった指輪だった。幽霊の手が俺の首から離れた。

 妻の幽霊はそのままアニマの元へ行き、その手から紫の宝石の指輪を受け取った。

 すると、まるでようやく手に入れたと言わんばかりの嬉しそうな笑顔をしたままで、妻の幽霊は朝日が昇ると共に消えていった。


「……た、助かったのか?」

「ええ。みたいね」


 アニマは大きくため息をついて、朝日の方を見た。


「しかし……どこにあったんだ?」


 俺が訊ねると、アニマはキョトンとした顔で俺のことを見る。


「なかったわよ。店の中には」

「……はぁ? でも、今渡してたじゃないか」

「ああ。あれは魔宝石よ。紫色の。私が魔法で加工して指輪にしたの」


 俺はあまりのことに何も言えなかった。どうやら、この魔女は、幽霊相手に紛いものを売りつけたらしい。


「お、お前……」

「いいじゃないの。タイラー。助かったんだから」


 さすがのことに俺も何も言えなかった。しかし、アニマの言う通り、助かったのだから何も文句を云うこともないのだが。

「あ、あったぞ!」


 と、背後から声が聞こえて来て、俺とアニマは同時に振り返った。


「主、指輪だ!」


 そういって嬉しそうにセピアは、俺に、紫色の宝石が入った指輪を手渡してきた。


「……ああ、そうだ。アニマ。助けてくれた御礼、だ」


 俺はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべて、アニマに指輪を手渡した。アニマは最初キョトンとしていたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「ありがとう。私は、絶対に失くさないようにするわ」


 アニマの人差し指に嵌められたその指輪はどこか、妖艶な輝きを放っていたのだった。

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