邪魔剣カルマ 3
俺は思わずアニマを見てしまう。アニマもその質問が来ることはわかっていたようで、気まずそうな顔で剣を睨んだ。
「……誰でもないわ。ただの通りすがりよ」
……さすがにこの状況でその答えは無理があると思うが、言ってしまったものは仕方なかった。
アニマとしてもさすがに苦々しい顔で剣を見ている。
「……フフッ。相変らず嘘が下手だな、アニマ。既にメンテから聞いて知っているぞ。お前、その人間のことを随分と気に入っているようじゃないか」
「人間じゃないわ。彼は魔女と人間のハーフよ……それに、キチンと魔法使いとしての認定も受けたわ」
すると、剣は呆れたように大きくため息をついた。
「アニマ……言っただろう? 私達は人間よりも優れている。それにも拘らず今までずっと人間に虐げられてきたのだ。だからこそ、人間を滅ぼし、私達だけの世界を創造する必要がある……それなのに、半分人間の血が流れている奴と付き合うなんて可笑しな話じゃないか?」
すると、剣はまたしても俺の方に眼を向ける。
「小僧。お前は一体どういうつもりだ?」
「え……な、なんだよ……」
「ダメよ、タイラー。話をしちゃ……」
俺が返答しようとすると、アニマが小さく返事する。しかし、不思議なことに、俺は刀身の眼から目を反らすことができなかった。
「お前は知っているのか? 私達の痛みや苦しみ……知ったつもりになっているだけなのだろう?」
「え……それは……」
まるで蛇に睨まれた蛙だった。何もできず、俺はただ邪魔眼の瞳を見ていることしかできなかった。
「教えてやろうか? 私達が受けた辛さや悲しみ……そして、痛みを……!」
邪魔眼が怪しく光る……まるでそのままその蒼い炎のような瞳に飲み込まれてしまうような――
「タイラー!」
と、思いっきりアニマにひっぱたかれて俺は我に返った。
「あ……な、なんだ?」
「フフッ……やはり片目では不十分か」
剣が自嘲気味に笑っている。俺は何が起こったのか理解することすらできなかった。
「さて……メンテ。今日はもういい。アニマに再会できただけでも最高の一日だった。アニマと遊ぶのは……また今度にしよう」
そういって刀身の邪魔眼はゆっくりと眼をつぶり、そのまま見えなくなった。
「……とのことです。良かったですね。カルマ様がお優しい方で」
剣を手にしたメンテはそのまま俺たちに背を向ける。
「アニマ! メンテ放っておくの!?」
俺が手にしていた本モードのフォルリが、似つかわしくない大きな声で叫ぶ。
しかし、アニマは動こうとしない。
「……私には、メンテを止めることは……できないわ」
アニマは心底悔しそうに、声を押し殺すようにそう言った。




