邪魔剣カルマ 1
「な、なんだ!?」
明らかに爆発音だった。外で何かが起こったということがわかる程度には大きな音だ。
アニマは真っ青な顔で固まっている。
「タイラー様! 外には……」
フレイアに言われるよりも前に俺は動き出していた。
ヴィオとフォルリ……こんなことから教会の中にいた方がよかったではないか。
俺はそんな後悔をしながらも、急いで外に出る。
「フォルリ! ヴィオ!」
と、外に出た時だった。
既に教会の周りにはなぜか蒼い炎が燃え盛っていた。その奇妙な蒼い炎は突然発生したようだった。
「ど、どうなってんだよ……」
「おや? アナタだけですか?」
と、聞こえて来た声に俺は顔を向ける。そして、目が大きく見開かれるのを感じた。
「お、お前……」
俺の目の前でニンマリと不気味な笑みを浮かべている少女……くしゃくしゃの髪の毛に不健康そうな顔色……
「メンテ……!」
「お久しぶりですね。ジョセフ・タイラー」
俺は一刻も早くフォルリとヴィオの安全を確認したかったが、動くことができなかった。
なぜなら、メンテはいつもと様子が異なっていたからである。
「お前……なんだよ、その剣」
メンテは以前とは異なり、その手に大きな剣を持っていた。
その剣は銀色の刃であることは普通の剣であることと変わらないが、不思議なことに……燃えていたのだ。
しかも、それは周囲でくすぶっている炎と同様に、奇妙な蒼い色で……
「ああ、これですか。アナタには関係のないものです。それより、いるのでしょう? アニマ先輩。呼んできてくださいよ」
「……それより、ここに2人いたはずだ。お前まさか……」
「ああ、それなら――」
その瞬間だった。いきなりどこからともなく、メンテに向かって水流が放出されたのだ。
俺はそれが間違いなくフォルリの魔法によるものであるとはすぐに理解できた。
「御主人様!」
と、こちらに全速力で走ってくるヴィオは手に本モードのフォルリを抱えていた。
「ヴィオ! フォルリ! 無事だったか……」
「ええ、フォルリ様が咄嗟に本に変身してくれて……なんとか魔法であの炎を防ぎました」
ヴィオは不安そうな顔で俺を見る。俺は本の姿のフォルリを見る。
「フォルリ……アイツのあの剣……」
「……うん。まずい。あれは――」
「なんですか? これ? これが魔法ですか?」
と、水流が直撃したかと思われたが、すぐにメンテの声が聞こえて来た。まったくダメージは与えられていないようで、平気でヘラヘラと笑っている。
「メンテ!」
と、ようやく背後からアニマの声が聞こえて来た。俺とヴィオ、そして、メンテも同様にそちらに顔を向ける。
「ああ……アニマ先輩……やっと来てくれましたね」
心底嬉しそうに微笑むメンテ。
「アナタ……一体何をしたの?」
アニマは周囲の蒼い炎を見ながら何か嫌なことを感じ取っている顔でメンテに訊ねる。すると、メンテはニンマリと気味悪く微笑んだ。
「ええ……再会させてあげようと思ったんですよ。アニマ先輩を……昔の親友と、ね」
そういってメンテは蒼く燃える剣を高く掲げる。すると、銀色の刀身の表面に、いきなり目玉が表れた。
見覚えがある蒼い瞳の目玉……あれは、邪魔眼だ。
すると、刀身の目玉はニンマリと嬉しそうに、邪悪にその眼を細めた。
「……久しぶりだな。アニマ」
どこからともなく、声が聞こえて来た。その声はなんだか普通に聞けば綺麗な声なのだが……どこか気味の悪さが篭った嫌な声だった。
そして、その声は間違いなく剣から聞こえて来ていた。
「そ、そんな……カルマ?」
怯えきった表情のアニマは、震える唇でそう呟いたのだった。




