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古魔宝具の精霊

「しかし、汚ねぇなぁ。ここも」


 俺は「マジック・ジャンク」の裏側に回って思わず呟いてしまった。

 ガラクタ同然のものでも売る「マジック・ジャンク」でも売れないような本当の意味でのダメな魔宝具達が、ゴミの山のように積み重ねられている。


「……ったく、ひでぇなぁ。コイツラだってれっきとした魔宝具だろうに」

「そうじゃ……その通りじゃ!」


 俺は思わず目を見はった。見ると、ゴミの山のすぐそばに、体育座りで小さな女の子が座っている。

 白い髪に、白い布切れのような服を着ている。


「……え? ちょ……お嬢ちゃん……何やってんの?」

「お嬢ちゃんではない! 我等は精霊じゃ!」

「……は? 精霊?」


 俺が戸惑っていると、少女は立ち上がった。

 なぜか偉そうな女の子は、俺のことを不遜な態度で見ている。


「お前は何物じゃ?」

「え……俺? 俺は、ジョセフ・タイラー……この店の客……みたいなもんだけど」

「客? 店主ではないのか?」

「ああ、俺は店主じゃない」


 そう言うと、女の子は腕を組んでウンウンと頷いた。


「よかったのぉ。お主がもし店主じゃったら、我等はお主に天罰を下さねばならない所じゃった」

「天罰って……え? なんで?」

「当たり前じゃ! 良いか? 我等は魔女や魔法使いの勝手な都合で作られた。そして、使えないという理由で、このようにして打ち捨てられておる……許せると思うのか?」


 怒っている女の子。我等……俺はその言葉が気にかかった。


「え……我等って……これ?」


 俺は思わず目の前の古い魔宝具の山を指さした。女の子は頷いた。


「そうじゃ。先程から言っておるじゃろう。我等は多数で1つ……1つ1つの力は微細ではあるが、こうして合わされば人の形を以て顕現することも可能なのじゃ」

「へぇ……なるほど。精霊ってマジなのか。じゃあ、何かやってみせてくれよ」

「え……何か、とはなんじゃ?」

「だから、魔宝具の精霊なんだろ? だったら、何かができるんじゃないのか?」


 俺がそう言うと、精霊は少し困ったように俺から視線を逸らした。


「む、むぅ……な、何かと言われてものぉ……そ、そもそも、こうして人の形を成しておるだけでも、すごいと思わんのか?」

「え……いや、そりゃあ、すごいけどよ……」

「そうじゃろう!? お主、なかなか見どころのある男じゃな。我等の主人にしてやっても良いぞ?」

「あら。それはいいわねぇ」


 と、そこへアニマの声が聞こえて来た。その瞬間、精霊はまるでいたずらを見つかった子供のように、ビクッと反応した。


「ああ。アニマ。来たか」

「来たか、じゃないわよ。何をやっているかと思えば……やれやれ。精霊が憑いちゃったのね」


 そして、冷たい視線で精霊を見る。精霊はアニマを見て怖がっているようだった。


「精霊が……憑いた?」

「ええ。こういうふうに魔宝具……いえ。なんでもいいわ。道具でもなんでも、捨てておいたり、放っておくと、実体を持たない霊的な存在がそれを依代にして取り憑いちゃう場合があるの」

「え……じゃあ、コイツは、このガラクタの山を依代にした精霊ってことか?」

「ええ。だから、こういうものはさっさと処理しておいたほうがいいんだけれど」


 そういってアニマは手のひらから黒い炎を出した。どうやら、ゴミの山を一掃してしまうつもりらしい。

 アニマの黒い炎を見て、精霊は怯えているようだった。どうやら、本当にアニマに対抗する術は持っていないらしい。

 なんだかその姿はひどく哀れだった。とても、神秘的な精霊という言葉が似合わないくらいに可哀想である。


「……なぁ。アニマ。さすがに、燃やしちゃうのは可哀想じゃないか?」

「はぁ? 可哀想って何? これはゴミ同然のものなのよ。燃やしたほうがいいわ」

「けどよぉ、燃やしたらコイツも消えちまうんだろ?」


 俺がそういうと、精霊は意外そうな顔で俺を見ていた。


「あのねぇ……あれは精霊と古魔宝具の力が合わさってできた、いわば幻のようなものなのよ? 慈悲をかける必要はないわ」

「だけどよぉ……わかった。このゴミの山。俺が引き取る」


 俺がそう言うと、アニマは目を丸くした。精霊の方も信じられないという顔で俺を見ている。


「本気なの? こんなゴミの山……どうするつもり?」

「まぁ、少しずつだけど、俺の家の裏にでも置いておくよ。どうせ、俺の家の裏はゴミ置き場みたいになっているからな」


 俺はそういって精霊に顔を向ける。精霊は未だに助かったことが信じられないのか、呆然としている。


「お前、掃除と家事くらい、できるだろ?」

「え……あ、ああ。我等の中にはそのために作られたものもおる。それくらいは、できるぞ」

「そうか。じゃあ、それくらいのこと、よろしく頼むぞ」


 そう言うと、精霊は嬉しそうに笑った。


「……ふんっ。勝手にするといいわ。でも、古魔宝具を運ぶのは自分でやりなさいよ」

「ああ、わかってるって……ほら、精霊。お前も手伝えよ」

「……うむ! 我等が主よ!」


 こうして、俺はその場のノリと弾みで、精霊を引き取ってしまった。

 その後数日間に亙り、俺は、「マジック・ジャンク」の裏から古魔宝具を運ぶという重労働が続けられたのであった。

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