ジョセフ・タイラーの使い魔
「……で、レーナからも認定はもらえたってわけね」
マジック・ジャンクに戻ってきた俺達は、お茶で一息つきながら、ようやく俺が魔法使いになる条件をクリアしたことを確認していた。
「ああ。で、ヴィオもネルトゥスにドラゴンの姿……見せてもらったんだよな?」
「あ……はい。でも……やっぱりドラゴンになるって難しそうです。やっぱりできるかわからないですね……」
ヴィオは自信なさげである。そりゃあ、ドラゴンになれって言われても確かに難しそうだしなぁ……
「……まぁ、ヴィオのことはともかく、タイラー。アナタはこれで一人前の魔法使いなのだから、節度を護って魔法を使いなさいよ」
いつもインチキ魔宝具を取り扱っているアニマには言われたくなかったが、確かに其の通りだ。
俺は思わず横に座っているフォルリを見てしまう。
「フォルリ……その、これからもよろしくな」
俺がそう言うとフォルリは真っ赤になって俺を見る。そして、少し顔を逸らしながらも嬉しそうに微笑む。
「うん……よろしく」
「……ちょっと、誰のおかげで魔法使いになれたと思っているの?」
と、不満そうな感じ前回でアニマが俺とフォルリにそういう。
「え……あ、ああ。わかっているよ。でも、魔法使いねぇ……やっぱりあんまり実感湧かないなぁ」
「実感なんて湧かなくていいのよ。むしろ、自分のことを魔法使いだと自覚する時なんて永遠に来ない方がいいわね」
意味深なことを言いながらアニマはそう言った。まぁ……俺は相変らず俺のままみたいだし、とりあえず魔法使いという身分を獲得した、くらいに思っていればいいのか。
「あ、あの! 御主人様!」
と、いきなりヴィオが俺に話しかけてきた。
「え……何?」
「えっと……ちょっとドラゴンになってみようと思うんで、見て欲しいんです!」
と、真剣な顔でそう言うヴィオ。俺はフォルリとアニマの顔を見る。
「ええ、やる気があるときにやった方がいいわ。さぁ、子猫ちゃんがどんなドラゴンになるか見てみましょう」
というわけで俺とアニマ、フォルリはマジック・ジャンクの外に出た。
俺達3人を前にして、ヴィオは若干緊張気味である。
「……では、行きます!」
と、ヴィオがそう言うと、瞬間的に、ヴィオの姿が一気に大きくなった。
それは、そのまま小さな丘程の大きさになったかと思うと、そのまま俺達が創造する竜の形になった。
「……あれ?」
しかし、ここで異変があった。
「これが……ドラゴン?」
確かにヴィオの姿は変化した。しかし、ドラゴンというか……大きなトカゲなのである。
翼もない上、その身体の表面には黒い体毛で覆われている。言うならば黒い猫がトカゲに進化した……そんな感じなのである。
黒いトカゲ猫は悲しそうな表情をしたかと思うと、あっというまにヴィオの姿に戻った。
「……すいません。これが限界です」
申し訳無さそうにそういうヴィオ。でも、一応竜……というかでかいトカゲには変化できたので、大きな進歩と言えるかもしれない。
「……で、これでいいのか? アニマ」
俺が訊ねるとアニマは少し困ったような顔をしながらも、小さく頷いた。
「ええ。別に使い魔が正確に竜の姿をしている必要はないわね……タイラーらしい使い魔だと思うわ」
「……その言い方、ひっかかるなぁ。っていうか、お前の使い魔はどうなんだよ? 本当にドラゴンなのか?」
俺が少しからかう感じでそう言うとアニマは少し悲しそうな目で俺を見た。
「……そうね。そろそろタイラーには私の使い魔を見せてもいいかもね」
その言葉にはどこか重々しい、張り詰めた感じがしていたのであった。




