土魔女と岩竜 8
不意に聞かれたその質問に、俺は戸惑ってしまった。
どんな風に……考えても見なかった。
ただ魔法使いになる……それだけしか、俺の頭にはなかったのである。
俺を見るレーナの目つきはやはり試しているように見える……トリンデの時よりも俺は緊張しているのがわかった。
「……わからん」
「え?」
しかし、俺が口にした答えはそれだった。
「……分からねぇよ。魔法をどういうつもりで使うなんて思ったこと無いし……でも、お前やアニマ、フォルリが昔……俺が生まれるよりも前に辛い目にあったってことは何となく知っている……」
「……だとしたら、君も私達のように魔法を使うのかい?」
「それは……ないな。俺、戦争とか嫌いだし。まぁ、俺やアニマとかフォルリ……それにろ俺の家の居候連中に危険が及ぶっていうなら魔法を使うかもしれないけどよ……自分から進んで魔法を使いたいとは思わないね」
俺がそう言うとレーナはジッと俺のことを見ていた。
別に正しい答えを言おうと思って言ったのではない。カッコつけようとも思っていなかった。
ありのままの気持ちを俺はレーナに言ったのだ。
「……そうか。アニマが君に執着する理由がわかったよ」
と、レーナは嬉しそうに微笑んだ。レーナの小指から一匹の小鳥が飛び立っていった。
「合格だ。認定を上げるよ。掃除ももうこれで終わりでいい」
「……え? いいのか?」
「ああ。君は確かに割と私に似た人間だ。ぐうたらでめんどくさがりで……でも、守りたいものがある。そのためにはきっと必死になるだろう。今は実感がないだろうけど……その時に魔法はきっと君に必要になるからね」
そういってレーナは大きく欠伸をした。
「さて……ネルトゥスを呼んでくるかな。君の使い魔にドラゴンの姿を見せる必要があるんだろう?」
「あ、ああ……」
そういってレーナはそのまま玄関から屋敷の中に戻っていった。
「……これで、俺も魔法使いなのか?」
実感があまりにも沸かないので、俺は近くにいたフォルリに訊ねる。
「そう。立派な一人前。おめでとう、タイラー」
ニッコリと微笑むフォルリを見て、俺は自分が魔法使いになったことをようやく実感したのであった。




