土魔女と岩竜 7
「うわ……マジでドアの前で止まっているよ」
玄関の前まで行くと、扉の前で貯まったゴミがまるで山のようになっていた。
これはとりあえず扉を開かないといけないようである。
「よし。フォルリ。扉を開けるぞ」
「了解」
俺とフォルリはとりあえずゴミの山をかき分けながら玄関の扉を押し開けた。
「はぁ……っていうか、どうしてレーナはこんなゴミだらけの家に住んでいるんだ?」
俺が聞くと、フォルリは困り顔で俺を見る。
「レーナ、大地と生命の魔女。ありとあらゆる物体の声、聞ける」
「……それって、ゴミも、ってことか?」
俺が聞くと、フォルリは頷いた。ゴミの声……だから、捨てられないでいるってことなのだろうか?
「……でも、いい加減捨てないとダメなんだろ?」
「そう。でも、自分じゃ捨てられない。だから、レーナ、私達に頼んだ」
なるほど、と事態を理解すると、俺はとりあえず、ゴミの山から何かわからないものを掴んだ。
「……とにかく、1回全部外に出すぞ。それから屋敷の中に残っている他のゴミも……水で流すとしよう」
フォルリも頷いた。俺達はそのまま作業を開始した。基本的にゴミを外に出し、屋敷の中で水流を放出し、その後、ヴィオが水浸し状態をなんとかする……その繰り返しだった。
「……はぁ」
屋敷の全体の半分くらいが、終わった辺りで、俺とフォルリ、ヴィオは一旦休憩することにした。
「はぁ……自分も家でもこんなにちゃんと掃除したこと無いぞ……」
「……同感。でも、タイラーの家、こんなに汚くない」
「……そりゃあそうだろ。どうして、こんなに汚く出来るんだよ」
「それは、ゴミにも存在する自由があるからだよ」
と、俺達がそんなことを言っていると、急に会話に参加してくる声が聞こえて来た。
「あ……お前……」
相変らず長すぎる髪と、パジャマのような服装……レーナがいきなり俺達の前に表れた。
「どうやら、掃除は進んでいるみたいだね」
柔らかい笑みを浮かべながら、レーナは周囲に散らかったゴミを見ている。
「……まさか、ゴミの処分まで俺達に頼むつもりじゃないだろうな?」
「まさか。それに、彼らは放っておけば地面に戻っていく……これも総て生命の循環なんだよ?」
何を言っているかわからなかったが、とにかく、ゴミの処理まではしなくていいらしいので、俺は安心した。
「ところで、タイラー君。どうして、魔法使いになりたいんだい?」
「え? ああ、それはアニマに言われたから……もしかして、お前、俺をテストしているのか?」
「テスト? なにそれ? そんなことしてないよ。君の気持ちを知りたいだけさ」
と、レーナはのんびりとそういった。どうやら、本当らしい。
「……ああ、だったら、今の言葉そのままだ。アニマに言われたから、それだけだ」
「……なるほど。君のことはよく知らないけど……それなら安心だ」
と、意外な言葉をレーナは言った。
「安心? そんな理由で安心するのか?」
「うん。だって、君は物を壊したり、人を殺したりしたくて、魔法を使いたいわけじゃないだろう?」
そう言うレーナの指先には小さな小鳥が止まった。レーナは小鳥を愛しそうに撫でる。
「……そんなことは考えたことなかったな」
「そう。それならいいんだ。私達魔女や魔法使いは、魔法で生命や大地に大して酷いことをしてきたからね……これ以上そんなことを目的にする人種は増やさない方がいい」
そういってレーナは俺の方を見る。その瞳は先程までののんびりとした瞳ではなかった。どこか悲しみを湛えた……辛そうな瞳だった。
「もう1つだけ聞くよ。君は……魔法をどんな風に使うんだい?」




