黒猫の反乱 5
「さて……そろそろマジック・ジャンクに戻るか」
俺がそう言うとヴィオはギクリとした顔で俺を見た。
「……え、か、帰るの? タイラー……」
「ああ。きっとフォルリもさすがに起きているだろうし……『本物』のアニマも起きているだろうからな」
俺がそう言うとアニマはキョトンとした顔をした。そして、俺はアニマの近くにいって頭の上に乗っている帽子を取り上げた。
「あ……」
帽子を取ると、頭の上には、2つ、黒猫の耳があった。
「……あのなぁ。変身するなら、もう少し上手くやれよ」
俺がそう言うと、アニマは悲しそうに俺を見た。
「……ごめんなさい」
そして、みるみる内にその姿は小さくなっていき、あっという間にヴィオの姿そのものに戻った。
「はぁ……で、なんでこんなことしたんだ?」
「……御主人様が、私のこと、どうでもいいって思っていると思って……」
「なるほど。それで、アニマに変身したわけか。っていうか、本物のアニマはどこだよ?」
「……地下室に寝かせておきました」
「寝かせた? アニマもフォルリと同じように気絶したのか?」
「ええ。私の……魔法です」
「え……お前、魔法使えるのか?」
「……1つだけです。『ネコダマシ』……猫の使い魔だけが使える魔法で、どんな相手でも気絶させることができます。同じ相手には二度と使えないですけど……」
デメリットはあるものの、地味にすごい魔法を使えるのだと感心しながらも、俺は大きくため息をついた。
「で、お前は俺がお前のことを、どうでもいい存在だと思っていると?」
「……だって、私は成り行きで御主人様に押し付けられただけだし……御主人様だって迷惑しているんじゃ……」
ヴィオが悲しそうにそういうのを見て。俺は今一度大きくため息をついた。
「ああ。そうだな。迷惑だ。でも、別にお前だけじゃねぇ。セピアやフォルリだって、お前と同じようなもんだよ。全部、アニマに押し付けられたんだ」
「……でも、その2人は一緒に暮らしているじゃないですか」
不満そうにそういうヴィオ。言われてみれば確かにそうだ……ここは、もはや腹をくくるときなのかもしれない。
「……いいか。絶対に、猫のままの姿でいるんだぞ」
「え?」
ヴィオはキョトンとした顔で俺を見る。
「……俺の家で飼ってやる。ただし、お前を黒猫として飼ってやるって意味だ。居候はこれ以上増やせないからな」
「ご、御主人様……!」
嬉しそうにぱぁっと顔を輝かせるヴィオ。
「ただし! キンケイドの店で昼は働けよ。夜は家に帰ってきていいから……」
「はい!」
そう言うと、ヴィオはいきなり俺に抱きついてきた。
「なっ……や、やめろ……そんな猫みたいにじゃれつくな……」
ヴィオは嬉しそうに喉を鳴らしながら、俺に頭を擦りつけてきた。
「何言っているですか。私は、御主人様の使い魔で……飼い猫ですよ?」
無邪気に微笑むヴィオ。こうして、俺はその日から黒猫を家で飼うことになったのであった。




