黒猫の反乱 4
「おや。若様」
店に入ると、暇なそうなキンケイドが俺とアニマを見た。
相変らず店の中は誰も居らず閑古鳥が泣いている感じである。
「……おや? ヴィオは?」
俺はわざとらしくそう聞いてみる。
「ヴィオ、ですか? 朝からアニマ様の店に行くと言っていましたが……」
キンケイドも困ったようにそう言う。そして、俺の隣にいるアニマを見る。
「アニマ様。ヴィオを見ませんでしたか?」
「え……み、見てない……わ」
ぎこちなくそう感じるアニマ。キンケイドも不思議そうにアニマを見ていた。
「ああ。そうだ。どうせ、暇だろう。俺とアニマにお茶を出してくれ」
「かしこまりました。お座り下さい」
そう言われて俺とアニマは椅子に腰掛ける。アニマは落ち着かない様子で仕切りに辺りを見ている。
「なんだよ、アニマ。落ち着かないな」
「え!? そ、そんなことない……わ」
いい加減観念したらいいと思うが……コイツなりに何か考えがあるのだろう。俺は仕方なくそれに付き合ってやることにした。
「若様。アニマ様。お茶です。お暑いのでお気をつけて」
そういってキンケイドは俺とアニマにお茶を差し出してきた。
俺は紅茶を口に含む。キンケイドが熱めにお茶を入れるのは既に知っている。だから、俺は平気だった。
しかし、アニマは困った顔で紅茶を見ている。
「なんだ。アニマ。飲まないのか?」
俺が訊ねると、困り顔でアニマは俺を見る。
「あ……わ、私……猫舌で……」
「そうだったか? 仕方ないな……ああ。そうだ。キンケイド。やっぱりヴィオも猫舌なのか?」
俺がそう言うとまたしてもアニマは緊張した様子で俺から顔を反らす。
「ヴィオですか? ええ。そうですね。紅茶の味見もしてくれないので、困りますね」
「なんだ。それじゃあ、ここの店員として役に立っていないんじゃないか?」
俺がそう言うと苦笑いしながらキンケイドは俺を見る。
「そう……ですね。皿洗いをさせれば毎回2、3枚は必ず割ってしまうし、お客の注文も忘れてしまうし……優秀とはいえませんね」
それを聞いてアニマは悲しそうに俯いている。俺も、さすがになんだか可哀想になってきた。
「そうか。やはり、俺がヴィオは引き取った方がいいか?」
「……いいえ。その逆です」
すると、キンケイドはニッコリと笑って俺を見る。
「若様。ヴィオは、誰かの役に立ちたいという気持ちで行動しています。確かに、あの子は少々ドジかもしれません。でも、一生懸命なのはあの子の良いところです。仕える者として働いていた私としては、あの子の一生懸命さは素晴らしいものだと思っております」
キンケイドがそう言うと、アニマは目を丸くしてキンケイドを見ていた。
「おや? どうかしましたか? アニマ様」
「え……あ、その……キンケイドさんが……ヴィオのこと、そんな風に思っているとは思わなくて……」
「意外でしたか? 私もヴィオも、若様にお仕えする身。それならば、私がヴィオの面倒を見るのは、当然のことですから」
キンケイドがそう言うと、アニマは目の端にうっすらと涙さえ浮かべてニッコリと微笑んだ。




