雷魔女と風竜 9
不敵に微笑むトリンデ。
バチバチと音を立てる電気は、おそらく真実玉から流れてくる電気と同程度……あるいはそれ以上なのだろう。
触れればほぼ確実に死ぬ……と思う。
「……はぁ」
しかし、俺の口から出たのは大きなため息だった。
「……へ?」
トリンデもキョトンとした顔で俺を見る。その瞬間、今までバチバチと音を立てていた電気はピタリと静止した。
「あー……いや、その……怖い。確かに怖かった。だけどなんというか……慣れちゃったんだよな」
俺はありのままの本心をそういうことにした。
既に俺はアニマのせいでとんでもない目に何度も遭っている。
そして、アニマがめちゃくちゃ強力な魔法を使えることも。
それに、俺自身、フォルリを使用しているだけなのだが、強力な魔法を使ってきた。トリンデもその強力な魔法を使う魔女の1人、なのである。
「慣れた……って……君! いいかい? 私は戦場で人を何人も殺してきたんだぞ? それなのに……怖くないのか?」
「……ああ。でもよぉ。それ、別にアンタが好き好んでやったことなのか?」
俺がそう訊くと、トリンデは口篭ってしまった。どうにも、あの話しぶり……どこかの面倒な誰かさんとそっくりだったのである。
「……確かにアンタ達魔女は人を大勢殺したのかもしれない。だけど、それは過去の話だし、自ら進んでやったわけじゃない。それで未だに後悔しているヤツもいることを、俺は知っている……アンタの魔力は強大だし、恐るべきものなんだろう。だけど、アンタそのものを怖いとは、俺は微塵も思わないね」
俺がそう言い切った。真実だ。俺はアニマもフォルリも、怖いなんて思ったことはない。
ただの面倒で、繊細で、優しい女の子だ。怖いなんて思えという方が無理である。
そして、その知り合いであるトリンデもそれは変わらないだろうと、俺は思ったのである。
「……フッ。なるほどね」
そういってトリンデは俺を見た。その目はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、キラキラとしていて、むしろ、そっちの方が怖かった。
「アニマ……この子、面白いね」
トリンデがそう言うと、アニマも渋い顔をする。
「ええ。そりゃあ、私が魔法使いに推薦するんですもの。つまらない人間のわけないでしょ」
「……ズルいなぁ。アニマだけ、こんな面白い人間を1人占めして」
「違う。タイラー、私の所有者、アニマだけのものではない」
と、すかざすフォルリもそういった。トリンデはキョトンとした顔でアニマとフォルリを見た。
「……うん。わかった。合格だ。タイラー。君は信頼に足る人物だ」
そういってトリンデはニッコリと微笑んだ。
「ふぅ……やれやれ」
「フフッ。大変だったかい?」
「大変? はっ。全然、楽勝だったぜ」
トリンデの問いに、俺は思わず強がってそう言ってしまった。
正直、トリンデが魔法を使おうとした時、ちょっとヒヤヒヤしたのだ。
そう……正確に言えば、その時俺は、嘘をついてしまったのだ。
真実玉を持ったままで。
「ぎゃあああああ!!!!!」
「タイラー!」
アニマの悲痛な叫びを聞きながら、真実玉から流れる電気で俺は今度こそ意識を失ったのだった。




