剣よりも強いペン
「あ……ちょ、ちょっと待っていただけないですかね?」
「うるせぇ! 金持ってんだろ! さっさと出せよ!」
俺とアニマは非常に困っていた。
街までやってきて買い物をした帰り、俺が少しばかり賭けに熱中していたために、すっかり遅くなってしまった。
結果として俺とアニマは現在、店までの道で盗賊に取り囲まれていた。
「あ、アニマ……なんとかしてくれ」
「嫌よ。私はね、本気しか出せないタイプなの。この人達を私が魔法で殺すか、それとも私達が有り金を全部出すか、2つに1つよ」
俺は仕方なく懐に手を突っ込んだ。有り金と言っても、既に博打ですっかりスってしまった。
今回ばかりは、本当に命の覚悟をしなければいけないかもしれない。
「あ。そうだ」
「あ? なんだよ?」
と、アニマはいきなり俺に何かを手渡してきた。
「これで、戦いなさい」
そういってアニマが渡してきたもの。それは、柔らかそうで上質な羽ペンだった。
「……はぁ? ふざけんな! こんなの、何の役に立つ?」
「立つわ。ほら、あの人、剣を持っているわ。あれと戦ってきなさい」
確かに目の前の一人は剣を持っていた。しかし、羽ペン如きが何の役に立つかさっぱりわからない。
「よ、よし……お、お前ら、これが見えないのか!?」
俺は一か八か、盗賊たちの目の前に出た。その羽ペンを持ってなぜか威嚇行動をする俺に対して、盗賊たちも少し戸惑っていた。
「あ……え、えっと……そこのお前!」
「え……俺?」
やけくそになった俺は思わず、剣をもった盗賊を指名した。
「そうだ。お前、この剣で斬りかかってこい」
「……はぁ? お前……何言ってんだ? まさか……その羽ペンで戦うっていうのかよ?」
馬鹿にした調子で男は云う。俺だって自分のことを馬鹿だと思う。
「そうだ! さぁ、かかってこい!」
しかし、ここまで来ては引き下がれない。俺はあくまで言い張った。
「へぇ……後悔すんなよ!」
男は躊躇うこと無く切りかかってきた。俺は思わず羽ペンを前に出した。
ガキン、と鈍い音がした。
「……あれ? 斬られてない?」
俺は自分が無事なことを確認した。と、周囲を見ると、盗賊たちは目を丸くして俺を見ている。
俺は自分の手の先を見てみる。確かに、羽ペンは剣を受け止めていたのだ。
「……マジかよ」
「ええ。マジよ」
と、ここでアニマがいきなり口を開いた。
「この羽ペン、とある有名な学者が使っていたものなの。彼はこのペンを使って多くの著作を執筆した。それらの書物の情報は、時に一国を傾けるようなこともあった……この魔宝具『剣よりも強いペン』……売ったら結構なお金になると思うわよ?」
そう言われて盗賊たちは顔を見合わせた。
そして、ニンマリと気味悪く微笑む。
「よし。お前ら、見逃してやろう。その代わり、その羽ペンは置いていけよ」
「あ、はい。分かってます」
俺は躊躇うこと無く羽ペンを置いた。
そして、そのままアニマと一緒にその場を離れた。
大分離れた後、俺とアニマは立ち止まって後ろを振り返る。
「……はぁ。もったいないことしたなぁ」
「何が?」
「何がって……羽ペンだよ。あんな魔宝具、売れば相当な金になっただろうに」
俺が悔しがっているのを、なぜかアニマは不思議そうな顔で見ていた。
「……なんだよ、その反応は」
「だって、あれ、魔宝具じゃないわよ?」
「……はぁ? でも、さっき剣を受け止めてたぞ?」
「あれは、私の魔法。あんな奴らの錆びついた剣くらい、羽ペンの硬度を鉄くらいに強化すれば簡単に受け止められるわよ」
「じゃ……お前、あの話も……」
「ええ、もちろん、適当よ」
そして、何事もなかったかのように、アニマは歩き出した。
「アナタも気をつけたほうがいいわよ? 魔女の中には、適当なガラクタに魔法をかけて魔宝具として販売している輩もいるから」
妖艶に微笑むアニマを見て、一番怖いのは、やっぱりこの黒衣の魔女だということを俺は再認識したのだった。