水魔女と水龍 2
フォルリにそう聞かれ、アニマは黙ったままでフォルリを見ていた。
フォルリも、アニマから眼を逸らさずにジッと見つめている。
言われてみれば其のとおりである。俺自身も、なぜアニマがいきなりそんなことを言い出したのかは疑問であった。
そもそも、今まではそんなことまったく言わなかったくせに、休暇から帰ってきた途端にこれである。
気まぐれで勝手なアニマとはいえ、さすがにいきなりすぎるというものである。
「……確かに、なんでなんだ。アニマ」
俺がそう言うと、アニマは大きくため息をついて、肩をすくめた。
「別に。特に深い理由はないわよ。ただ、どうせタイラーは暇だろうから、資格くらい取った方がいいんじゃないか、って思っただけ」
「……本当に、それだけ?」
フォルリが不審そうに今一度アニマに問いかける。
アニマは少し困ったような顔をしながら、フォルリのことを見た。
「ええ。それに、フォルリにとっても、魔法使いとして認定されたタイラーに自分を使ってもらったほうが気持ちがいいんじゃないかしら?」
「え……わ、私は……」
そう言われるのが予想外だったのか、少し動揺した様子でフォルリは俺のことを見た。
「え……やっぱり魔法使いとして認められた方が魔法が強くなったりするのか?」
「ええ。でも、タイラーは正式に魔術の訓練を受けたわけではないわ。だから、呪文なんかは使えるようにはならない……それでも、タイラーが魔法使いとしての資格を得れば、フォルリを使用する時に幾分か強い魔法を使えるようになるはずよ。それに、アナタ自身の魔力も加わるから、フォルリの負担も減るはずよ」
「へぇ……なるほどねぇ」
アニマにそう言われて、段々俺もその気になってきてしまった。
能く考えて見れば、今まで遊び人同然の暮らしで、ほとんどまともに職業や地位を持ったことがない。
もしかすると、俺は今まさに人生で初めて地位や資格を持とうとしているのではないか。
今になって俺はそう思えてきたのだった。
「……タイラーは、魔法使いになりたいの?」
と、フォルリは不安そうな顔で俺のことを見てきた。
「え……あー……そうだなぁ。俺としてはどっちでもいいんだが……フォルリの魔法が強くなるんだったら、俺も魔法使いになってもいいかなぁ」
「え……わ、私の?」
俺がそう言うと、フォルリは驚いて眼を丸くした。
「ああ。それに、フォルリの負担も減るんだろ? だったら、俺は魔法使いになってもいいかな」
そう言うとフォルリは少し頬を紅く染めて俯いてしまった。
「……で、どうするの? フォルリ」
と、そんな状態のフォルリに対して、ニヤニヤしながらアニマが訊ねる。
「……認める。私、フォルリ・ティアードは、ジョセフ・タイラーを魔法使いとして、認め……ます」
フォルリは、少し恥ずかしそうにしながら、俺に向かってそう言ったのだった。




