邪魔眼(後編)
「な、なんだよ……それ」
それは、なんとも禍々しい存在だった。
一見すると、ただの目玉なのである。
しかし、まるでそれ自体が生きているかのように邪悪なオーラを放っていた。
「ヒヒヒ……これは、邪魔眼という魔宝具さ。これは、僕の知り合いの目玉でね……彼女に頼まれたこれを作成したんだ」
「え……頼まれて……じゃあ、ソイツは……」
「ああ、とっくに死んでいる。だけど、こうして目玉として生きている……ほら。君も挨拶したらどうだい?」
そういってメンテは俺に目玉を近づけてくる。俺は思わず目玉と眼を合わせてしまった。
「うわっ!?」
其の瞬間、俺は思わずその場に腰をついてしまった。
「ん……どうしたんだい? そんなに青い顔をして……」
嬉しそうな顔で俺にそう言ってくるメンテ。
ヤバイ……この目玉は。
一瞬だけ眼を合わせた瞬間見えたのは、憎悪や、怒り、狂気……そして、死。
そんなイメージが脳内に一気に流れ込んできたのだ。
一刻も早くその目玉から眼を反らしたかったが、身体が言うことを効かなかった。
「……実は、その知り合いにはこの目玉にふさわしい身体も作って欲しいと言われていてね……今、作成途中なんだ」
「え……な、何言って……」
すると、メンテはいきなり俺の顎をつかみ、そのまま邪魔眼を近づけてくる。
「体ならなんでもいいんだ……君のような身体を使用するのは本望じゃないけど……健康そうだし……」
俺はやめろ、と言いたかった。
しかし、目玉は俺の方を見ている。俺は眼を反らすことができなかった。
青い瞳から流れ込んでくる恐ろしい感情で俺は完全にすくみあがっていたのである。
それと同時に、このまま本当に恐怖の感情に支配されてしまう……そう思っていた瞬間だった。
「やめて!」
と、背後から声が聞こえて来た。メンテは即座に懐に目玉を隠す。
「あ……フォルリ……」
俺は思わずそのまま地面に横になってしまった。
「タイラー! 大丈夫?」
フォルリは俺を開放するために近づいてくる。メンテはゴミを見る目で俺とフォルリを見ている。
「フォルリ……ああ。思い出した。アニマ先輩の知り合いの出来損ないの魔女か」
メンテのその言葉に、フォルリはいつもは見せないような鋭い目つきでキッとメンテを睨む。
「アナタ……タイラーに、何した?」
「何もしていないよ。ただ、教えてあげたんだ。世の中には君の知らないことがたくさんあるんだ、って」
そういってメンテは俺とフォルリに背を向ける。
「まぁ……あまり調子に乗らない方がいいよ。もうすぐ僕が、今まで僕を粗末に扱ってきた世界に復讐する時がやってくるんだ……ヒヒヒ、その時まで楽しみに待っているといいよ」
メンテはそのまま店から出て行ってしまった。
残されたフォルリは、俺のことを不安そうに見つめている。
「タイラー……大丈夫?」
「あ、ああ……」
正直、全然ダメだった。一体今のはなんだったんだ……
あの青い瞳……まるで「死」という概念そのものに見つめられているような……上手く表現できなかったが、とにかく恐ろしい体験だった。
「……アニマ、早く帰ってこいよ」
未だに恐怖から立ち直れない俺は、情けなく小さく呟いたのだった。




