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千里丸

「……はぁ」


 またしても俺は大きなため息をついてしまった。


 アニマは帰ってこない……やはり、だんだんと不安になってくる。


 そもそも、アニマは今どこで何をしているのだろうか……


「アイツ……1人だと何しているんだろう」


 ふと、そんなことが気になってしまった。


 今まで気にしたこともなかったが、よく考えて見れば、アニマが1人でいるときは何をしているのかは気になることである。


「……せめて、アイツがどこにいるかくらいわかればなぁ」


「わかるぞ、主よ」


 思わず背後からいきなり声が聞こえて来たので、俺は飛び上がりそうに鳴ってしまった。


「なっ……せ、セピア。脅かすな」


「あはは。すまんのぉ。これ、主が寂しがっていたら、店主から主に渡すように頼まれていたのじゃ」


 そういってセピアは小さな小瓶を俺に渡してきた。


 小瓶の中には半分ほど、茶色い丸い粒のようなものが入っている。


「……なんだこれ」


「これは、千里丸じゃ」


「千里……丸?」


「そうじゃ、とにかく、これを一粒飲んでみよ」


 言われるままに俺は小瓶から一粒茶色い粒を取り出してみた。


 そして、口の中にそれを放り投げる。


「……で、どうなるんだ……」


「目をつぶって、見たいものを強く念じるのじゃ」


 今度は目をつぶってみる。今見たいもの……アニマのヤツ、今どこで何をしているんだ。俺はそれが知りたかった。


「……ん? なんか見えたぞ」


 すると目をつぶっているのにも拘らず、俺にはなにかの光景が浮かんできたのだ。


「ふふふ……よく見ようとするのじゃ」


 ぼんやりとしていた光景は少しずつはっきりと見えてくる。


 それは……どこかの部屋の一室のようだった。


 ベッドと机だけという、ものすごく質素な部屋である。


 そのベッドの上で、黒髪の女が眠っている。


 見覚えのある黒髪の女が。


「あれ……これって……」


 目の下のホクロを確認し、それが、アニマ・オールドカースルであることを俺は確認した。


「おお、これ、遠くが見えるようになる魔宝具か」


「そうじゃ。ほれ。もっとよく見てみよ」


 言われるままに俺はベッドの上のアニマを見ている。


 よく見ればアニマの寝顔は、普段の小賢しい態度からは想像できない程に可愛らしいものだった。


「う~ん……タイラー……」


 と、アニマが目をつぶったままで俺の名を呼んだ。


 寝言なんだろうが……なんなんだコイツは。ちょっと、恥ずかしいじゃないか。


「う~ん……アナタ、私というものがありながら、フォルリとキスしたわね……絶対許さないんだから……」


 と思っていた矢先、アニマはとんでもない寝言を言い出した。


「え……お、おい! どうなってんだ?」


「ん? どうしたのじゃ?」


 と、俺は目を開き、セピアに詰め寄る。


「あ、アイツ、なんで知り得ないことを知っているんだ?」


「ん? ……あー。それはのぉ。ほれ。千里丸が半分程減っているじゃろ? 店主が旅に出る前に、主の様子を見たいから、と千里丸を持っていったのじゃ」


 それを聞いて、サァっと血の気が引いていった。


 ということは、アニマのヤツ……俺とフォルリの間にあったことを知っているというわけか。


「なんじゃ。そんなに店主に知られてはまずいことを、主はしておったのか?」


 ニヤニヤしながらそういうセピアに、俺は対応する余裕はなかった。


 やっぱり、もう少しアニマは帰ってこなくてもいいかも……俺は思わずそう思わざるを得ないのだった。

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