重いペンダント 1
「……はぁ。今日も暇だなぁ」
俺は店の奥の机に突っ伏しながら、大きくため息をついた。
どうせ客も来ないし……正直店番をやっている意味さえもよくわからない。
もう、このまま眠ってしまってもいいのではないか……そんな風に考えていた。
「……いや、というか眠ってしまおう」
俺はそう決意し、目を瞑った。今日はフォルリもセピアもまだ来ていない。
どうせ来たら俺のことを起こしてくれるだろうし……
俺はそんな風に思いながら目を瞑って、本当にそのまま眠ってしまった。
「おい、主よ。何を眠っておるのじゃ」
と、パシンと頭を叩かれる感覚を覚えて俺は目を覚ます。
「え……あ、ああ。セピアか」
見るとセピアが呆れ顔で俺のことを見ている。
「まったく……店番をキチンとやる気があるのか? ほれ、これを見てみるのじゃ」
そう言われて俺はセピアが指差すものを見る。
見ると、机の上には青い宝石が嵌められたペンダントが置いてあったのだ。
「あ……え? なにこれ?」
「われらが知るわけ無いじゃろう。おそらく、主が眠っている間に客が来てこれを置いていったのじゃよ」
そう言われて俺はしまったと思った。眠っている内に稼ぎを無駄にしたということである。
「くそ……で、セピア。これ、なんなんだよ?」
俺はそういってペンダントを手にしようとする。
「うおっ!?」
しかし、ペンダントは机から離れなかった……というか、正確には俺はペンダントを持ち上げることができなかったのだ。
「な、なんだこれ……重いぞ」
「なに? じゃあ、それは『重いペンダント』じゃな」
「はぁ? おいおい、セピア、それがこの魔宝具の名前だっていうのか?」
「そうじゃ……はぁ。ろくでもないものを押し付けられらのぉ。主よ」
セピアは哀れみの目で俺を見る。
「はぁ? なんでだよ。これ、ダメな魔宝具なのか?」
「ああ……とにかく、フォルリが来る前にこの魔宝具をどこかに移動せねばならぬな……」
「はぁ? フォルリ? どうして?」
「タイラー」
と、丁度そこへフォルリの声が聞こえてきた。
「おお、フォルリ。調度良かった。これ、見てくれないか」
「あ、主……ダメだと言っておるじゃろう」
俺はセピアのいうことは無視して、フォルリに近くに来るように手招きする。
「何? タイラー」
「このペンダント。お前、持てるか?」
俺がそう言うとフォルリはペンダントを手にする。すると、大して苦労することもなく、フォルリはペンダントを持ち上げたのだ。
「なんだ。持てるじゃないか」
「主よ……それはそういう意味では……」
「フォルリ。それ、なんだか俺にはいらねぇものだから、お前にやるよ」
そういうとフォルリはペンダントをジッと見つめた後、それをゆっくりと首にした。
青い宝石のペンダントはフォルリの首元で美しく光っていた。
「おお、似合うじゃないか」
「……嬉しい。愛の贈り物……私、ちゃんと受け止めた」
「ああ、そうそう。愛の贈り物……は?」
と、俺がフォルリのことを見る。
フォルリはぼんやりと嬉しそうな目で、俺のことを見つめていたのだった。




