予言帳
「……はぁ」
マジック・ジャンクの店長を代行して既にそれなりに時間が経とうとしている。
アニマのヤツは……帰ってくる気配がない。
いや……アイツのことだ。どうせ、ふらっといきなり帰ってくるとは思うのだが……こうも音信不通だと不安になってくる。
「……まぁ、待っていても仕方ないしな。それにしても……」
暇だ。本当にこの店は客が来ない。
客らしきものは数日に1人か2人くらいは来るが……
それでもあまりにも暇な時間が多すぎるのである。
「クソ……なんか面白い魔宝具はないかねぇ」
俺はそう思いながら商品をかき回してみることにした。
しかし、埃が舞うだけで面白そうな魔宝具は出てこない。
そもそも、俺に魔宝具の知識がないのだから、どれが面白いかなんてわからないのだが。
「ん? どうしたのじゃ、主よ」
と、店の奥から、いつものようにお茶を飲みに来ていたセピアが顔を出した。
「……なぁ、セピア。面白い魔宝具、探してくれよ」
「なんじゃそれは……そうじゃのぉ。実はこの前この店で見つけたのじゃが、これなんてどうじゃ」
そういってセピアは俺に紙切れの束を手渡してきた。
「……なんだこれ?」
「これは『予言帳』という魔宝具じゃ。そうじゃのぉ、主よ。何か、知りたいことはあるか?」
「え? そうだなぁ……明日の天気とか?」
「なんじゃ、そんなことで良いのか?」
「まぁ……で、どうするんだ?」
「この紙切れを一枚破ってみるのじゃ」
言われるままに、俺は紙の束を1つちぎった。すると、驚いたことに破った紙切れに何やら文字が浮かんでくる。
「『晴れ』……え。なにこれ?」
「晴れ、ということじゃ。つまり、この魔宝具は1枚紙切れを破くと、近い将来の予告が破いたその紙に示されるのじゃ」
「ふぅ~ん……でもよぉ。天気なんて当るか当たらないかわからないぜ? こんなん信用できるのか?」
「ふふっ。そう言うと思って主の使用例を我等は考えてみたのじゃ」
そう言うとセピアはコインを取り出し、ピンと弾き飛ばすと、掌でそれをキャッチした。
「さて……表か、裏か……これは半々の確率じゃよな?」
「あ、ああ。そうだな……そのコインが魔宝具じゃなきゃな」
「当たり前じゃ。これは普通のコインじゃ。しかし、この正解率を上げる方法があるのじゃ」
そういってセピアは紙の束をひらひらと見せる
俺はまさかと思い、紙の束から1つ紙切れを破る。
「……『表』?」
紙切れに示された予言を俺はセピアに言ってみた。
セピアはニヤリと微笑むと、掌のコインを見せる。
コインは確かに表になっていた。
「おお! これは……セピア! 店頼むぞ! ちょっと街に出かけてくる!」
云うが早いか、俺はそのまま紙切れの束を掴み、店を飛び出していった。
「あ、主。まだ説明が――」
セピアが何か言っていたようだったが、そのまま俺は街へと向かったのだった。
「……で、それでトータルでは負けてしまったんじゃな」
夕方にマジック・ジャンクに戻ってきた俺はセピアに恨めしそうに予言帳を返してから賭けの結果を報告した。
「ああ……なんだよ、全然この魔宝具、ダメじゃねぇか」
「当たり前じゃ。主よ、これはあくまで予言なのじゃ。それがその通りに起きるとは限らぬ」
「はぁ!? だってコインの裏表は当てたじゃねぇか」
「それは、半々の確率だからじゃ。表か裏。適当に言っても当たらぬこともないじゃろう?」
俺は大きくため息をついた。そして、恨めしそうに予言帳を見る。
そして、乱暴に俺は紙切れの1枚を破り取った。
「ん? 何を予言してほしかったのじゃ?」
「……ふんっ。なんでもねぇよ」
紙切れに書かれていた『アニマ・オールドカースルは近い内に帰ってくる』予言を確認してから、俺は店の奥に戻っていった。




