代替召喚書 4
それから代替アニマはマジック・ジャンクに置かれることになった。
置かれる……という表現はおかしいかもしれないが、とにかく一緒にいることになったのである。
「タイラー」
と、俺が店の奥でグダっていると、代替アニマがやってきた。
「あ? なんだよ」
「お茶、持ってきた」
そういって代替アニマは俺にお茶を持ってきてくれた。
俺はキョトンとして代替アニマを見る。
「あ……ああ、ありがとう」
「いいの。タイラー、私、長い付き合い」
まるでアニマのようなことを言ってニッコリと微笑む代替アニマ。
……やはり調子が狂う。そもそもアニマは俺にお茶なんて持ってきてくれない。
というか、既に代替アニマがマジック・ジャンクにやってきて一週間になるが、全部「アニマではあり得ない」ことをしてくれている。
料理だってするし、掃除だってする。おまけに俺の肩を揉もうとしてきた時は、さすがに慌ててやめさせた。
とにかくまぁ、アニマとは比べ物にならない程に、代替アニマはやさしいのである。
「しかし……なんだか悪いなぁ、お前には色々やらせちゃって」
「問題、ない。私、タイラーのため、なんでもする」
「そ、そうか……でも、なんかしてほしいこととか、ないのか?」
俺がそういうと代替アニマは少し面食らったようだったが、うーんと考え込んだ後でニッコリと笑った。
「じゃあ、タイラー。今日、夜ご飯、一緒に食べて欲しい」
「ああ、なんだ。そんなことか。全然構わないぞ」
俺がそう言うと代替アニマは嬉しそうにしていた。
「じゃあ、買い物、してくる」
「おお、気をつけろよ」
そういって代替アニマはそのまま店の外に出て行った。
「……タイラー」
「え? うおっ!? フォルリ……」
と、いつのまにか俺の背後には、ものすごい形相をしたフォルリが立っていた。
「……タイラー。あの代替……良い?」
「え? ああ、すごい働きものだよ。本人よりアイツの方がいいんじゃないか?」
俺が冗談交じりにそう言うとフォルリは悔しそうに下唇を噛んで、なにやら「こんなはずじゃ……」と小さくつぶやいていた。
「ふむ。フォルリの奴、よく出来た代替を召喚してしまったようじゃなぁ」
と、いつの間にか隣でセピアがしみじみとそう言った。
「え……いいじゃないか。よく出来た代替で」
「そうなんじゃが……やれやれ。主は乙女心というものがわからん奴じゃのぉ……」
と、なぜかセピアに馬鹿にされた調子でそう言われてしまった。なんでそんな風に言われなければならないのか……
「ま、代替アニマも、そろそろ魔宝具としての本質を現してくる頃じゃろうし……この問題は解決しそうじゃがのぉ」
「はぁ? 一体なんだってんだよ……」
セピアはそう言って意味ありげに笑った。俺はなんだか嫌な予感がした。
それは、アニマがロクでもない魔宝具を俺に押し付けてきた時によく感じる予感であった。




