獣飴(後編)
「……って、持ってきちゃったよ」
マジック・ジャンクに戻ってきた俺は、思わず持ってきてしまった小瓶を手にして一人そうつぶやいた。
……そもそも、これは本物なのだろうか。ヴィオは獣の性質を得るといっていたが……どうにも信じられない。
「……かといって、自分で試す気にはならないよな」
「タイラー。何しているの」
と、そこへフォルリがやってきた。不思議そうな顔で俺のことを見ている。
「……フォルリ。飴、一つあげるぞ」
「え? いいの?」
俺は自分のことを最低な人間だと思ったが、そのまま獣飴をフォルリに差し出した。
フォルリは、俺に言われるままに、飴を舐めている。
「……フォルリ、大丈夫か?」
俺がそう尋ねると、フォルリは特に目立った変化はなく、俺の方を見る。
「……なんだ。やっぱりインチキ商品か」
俺は大きくため息をついて立ち上がった。すると、なぜかフォルリは俺の傍に近寄ってきた。
「……どうした、フォルリ」
「タイラー。行かないで」
「……は? 何言ってんだ……お茶だよ。今日はセピアがいねぇから自分でとってくるだけだよ」
しかし、フォルリは俺から離れようとしない。
まるで子供のようにトコトコと俺の後をついてくる。
「え……どうしたんだよ、フォルリ」
「私、タイラーと一緒にいる」
「え、あ、ああ……そうだな。でもちょっとくっつきすぎじゃないか」
すると、フォルリは不満そうに頬を膨らませる。
「……駄目?」
「駄目っていうか……変だぞ?」
俺がそういうと、フォルリはさらに不満そうに口をへの字に曲げる。
「タイラー、意地悪。私、タイラーと散歩、行く」
「はぁ? 散歩ってなんだよ……俺は今日はここでだらだらしていたいんだよ」
「だめ。散歩、行く。散歩行かないなら、フォルリの頭、撫でて」
「はぁ? フォルリ、どうしたんだよ、犬じゃねぇんだから……は!?」
俺はそこまでして、ふと、小瓶を見る。
獣の性質……もしかして、これは……
「……フォルリ、わかった。遊んでやる」
「え。遊んでくれるの?」
「ああ、この飴をとってこい。いいな?」
多少ひどいことをしてしまっていると思ったが、俺はそのまま獣飴を思いっきり投げた。
すると、フォルリはそれこそ犬のように走りだし、そのまま飴をキャッチすると飲み込んだ。
「よし……さて、これで犬ではなくなっただろう……」
俺は安心してそのまま店の奥に戻ろうとした。
「……どこに行こうとしているの、タイラー」
「あ? 店の奥だよ。大丈夫、すぐ戻ってくるから」
そういった途端、後ろからなぜか俺はギュッと抱きしめられた。
「はぁ? え、ちょ……フォルリ?」
俺は振り返ろうとしたが、全然それはできなかった。
それくらい、フォルリは俺をギュッと抱きしめていたからである。
「え、ちょっと……フォルリ……苦しい……」
「駄目。離さない」
うれしいような、それでいて苦しいような……それこそ、蛇が今から食べようとしている獲物に巻きついて離れないような……
「あ……へ、蛇って……」
「フフッ……タイラー、離さない」
結局、獣飴の効果は正確だったようだ。
俺は、フォルリが疲れて眠るまで、蛇のようにずっと巻きつかれて過ごしたのだった。




