迷い人の杖(後編)
「……迷い人の杖」
「そうじゃ。どういう使い方をするのか……主は知りたいのじゃろう?」
俺の心を見透かしているようで、セピアはニンマリと微笑む。
「ああ、そうだな……で、どうやって使うんだ?」
「簡単じゃ。この杖を立てて……そうじゃなぁ……よし。杖よ、我等の家を指し示せ」
と、そういってセピアが言うと、杖はしばらくそのまままっすぐに立ったかと思うと、ゆっくりと音を立てて倒れた。
「……で、これがなんだよ?」
「よく見るのじゃ。この杖、主の家の方向を指し示しているじゃろう?」
セピアに言われて気づいたが……確かに俺の家の方向を指し示している。
「……え? これだけ?」
「そうじゃ。この杖は『自分の探しているもののある場所』の方向を指し示してくれるのじゃ」
俺はそれを聞いて大きくため息をついた。それじゃあ、落とし物探しくらいにしか使えないじゃないか……
「なるほど、あの爺さんもこれがガラクタだとわかって売っていったのか」
「いや、そうじゃないぞ、主よ。例えば……主は金に困っているんじゃよな?」
と、セピアはいきなりそんなことを言ってきた。
「……まぁな。あんまり金を持っている方ではないな」
「じゃったら、この杖が場所を教えてくれると思うぞ」
セピアはそういって俺に杖を差し出してきた。俺は半信半疑で杖を受け取る。
「……じゃあ、金のある場所はどこ?」
俺はそういって杖を地面にまっすぐに立て、離す。杖は少しの間フラフラとしてから、ゆっくりと倒れた。
「……で、この杖が指す方向に向かえばいいんだな」
「そうじゃ。まぁ、百歩ぐらい歩いた辺りでもう一度杖を倒した方が良いぞ」
「……よし。セピア、店番任せたぞ。フォルリ、付いて来い」
そういって俺とフォルリは杖の指し示す方向通りに歩き出した。
百歩ほど歩いてから、杖を倒す……なんとも奇妙な行動だったが、この杖が指示す先に「金のある場所」があると考えれば苦ではなかった。
「……って言ってもなぁ」
夕暮れ。俺達は大分遠くに来ていた。
気づけばなんだか目の前には高い山がそびえている。
「おいおい……これ、ホントに金なんてあるのかよ?」
「たぶん……確証、なし」
フォルリもげんなりとした顔をしている。仕方ないので、俺もいい加減諦めることにした。
「……よし。最後の一回にしよう。これでまたよくわかんねぇ場所を示したら、もうこれは魔宝具でもなんでもない、ただのガラクタって考えるぞ」
そういって俺は杖を地面に立て、ゆっくりと手を離す。
すると、不思議なことに杖は倒れなかった。中途半端に斜めになったまま、前方の山を指し示している。
「……は? これって……」
俺とフォルリは顔を見合わせる。
「……前方の山、指し示してる」
「はぁ? なんでだよ? 山に金があるわけないだろ?」
俺がそう言うと、フォルリは首を横にふる。
「いや……ある。金が眠っている山、存在する。頑張って掘れば、金脈を掘り当てる可能性、あり」
「はぁ? ってことは、俺達は……」
そこまで言って俺は思い出した。
この杖を持ってきた爺さんが、やけに土や泥まみれだったこと……
あれは、まさかこの杖を信じて、今まで金脈を探していたんじゃ……
そう考えてから、俺はすぐに杖を手にすると、思いっきり目的も定めずにぶん投げた。
「あ……何しているの。タイラー」
動揺するフォルリを他所に、俺は大きくため息をつく。
「はぁ……帰るぞ。フォルリ」
「え? いいの?」
「ああ。言っただろ? 俺は『楽して金を儲けたいんだ』って」
俺がそういうとフォルリは苦笑いをした。
ただ、しばらくしてから、俺が投げたあの杖、誰かが拾ったりしないだろうか、と少し心配になったのだった。




